「っじゃあ私はこれで! これ以上居座るのはご迷惑かと思いますので帰ります!」

 がばりと立ち上がれば河村が目を丸くしたので、少しだけ溜飲が下がる。

「じゃあまたね。あ、お返しとかはいいから」

 澄ました顔で手を振る河村君には無理矢理作った笑顔を向けてやる。

「良かったです! じゃあさようなら!」

 ダダっと玄関に向かい、その勢いのまま外に飛び出した。
 考えて見れば知らない(いや、少しは知ってるけれど)男性の家に入るなんて、怖い……

 私の歩調は段々と早くなり、方向も分からない街中で、気付けば私は駆け出していた。



 ──そんな雪子の様子を窓から眺めてながら、
「そっかあ、別れたのかあ」
 そんなどこか嬉しそうな声は、発した本人以外に届く事は無かった。