すると何故か大嫌いな顔も合わせて思い出されて、思わず顔を顰めた。
 河村貴也。
 好きになるのと同じくらい嫌いにも理由はあるけれど、その感情を覆すのも同じように難しい。
 河村の場合は、いけすかない。に尽きる。

 あいつが物欲しそうに雪子を見てたのを知っている。
 雪子は相手にしてなかったけれど……
 
 あの頃、愛莉以外考えられなかった俺は、雪子との身体の関係はやんわりと拒んでいた。
 まだ学生だし、責任が取れないから──と。
 事実、もし何かあって愛莉が離れたりしたら、と思えば怖くて何もする気は起きなかった。

 雪子はほっとしたような、どこか寂しそうな顔をしていたけれど、だからってそれ以上の事は求めてこなかった。
 ……今思うと本当に慎ましい。

(──俺が雪子と結ばれたら、あいつはさぞ悔しがるだろうな)
 そんな思いが込み上げては笑いを噛み殺す。

 なんであんな奴を思い出したのかは分からないけれど……あいつのおかげ、でもあるからだろうか。
 得難いものが誰かが改めて知れた。

 だから、一応感謝してやるか。雪子の事は、お前の分まで幸せにしてやるよ。

 ああ早く……
 全部片付けて会いに行こう。
 きっと受け入れてくれる。その日が待ち遠しい。