「命令…」



「だったら、聞くしかないな?」



「…わかりました」



「おい」



「わ、わかった!」





よし、と魔王が切れ長の瞳をさらに細くした。



どき、と心臓が鳴る。





普段の顔がコワいぶん、不意打ちの笑顔は心臓に悪い。





「…あの、宝示さん」



「んー?」





どことなくご機嫌な背中で冷蔵庫に向かう魔王。どうやらいちごミルクを飲むみたい。



「あの、実は」


「おー」


「……」


「なんだよ」




冷蔵庫の扉に手をかけて振り向く魔王が、不思議そうな顔をした。




「いえ、なんでもないで…なんでもない」


「そっか?」


「私お風呂洗ってきま…洗ってクルネ」




やっぱり染みついた敬語を取るのは難しい。




私と魔王の画像が拡散されてることを伝えようとしたけど、やめた。



どうやら特別クラスの方には広まってないみたいだし。もしかしたらこのまま終息するかもしれないし。




ていうかそれを願いたい。





石鹸のついたスポンジでゴシゴシ浴槽をこすりながら、私は




このまま何事もなく、この生活が続いてくれればと…願った。