うちの家具屋が潰れてから、私もたくさん我慢した。




ほしい服とか。

気になるコスメとか。


食べたいものとか。





でも、お金はあってもそれと同じくらい…いや、それ以上に




魔王は辛かったのかもしれない。





だって私は我慢はしても、自分の“すき”を否定されたことはなかったから。






「でも、家とびだしても何も変わんなかった」





魔王が私の手に頬を寄せたまま、目を閉じる。何かを思い出すように。





「ナメられたくなくて、苦手なブラックコーヒー飲んで、常に周りを威嚇して。ほんとの、すっげー情けない自分がバレないように…カッコばっかつけて。変えらんなかった。俺、」





魔王が力なく私の手を離す。



俯くと、不自然なくらい真っ赤に染められた髪の毛が、表情を隠した。





「ずっとこのまま、好きなもん、好きって言えねー人生なのかな」