ま、俺もバイト先で偶然飲むまではあの味忘れてたけど、とどこか自嘲気味に口角をあげる魔王。
私は前に一度、魔王がしてくれた話を思い出した。
“自分の好きなもんとか、俺の意思なんてどーだってよくて”
“それ相応のヒンカクってやつが求められんだよ”
「…好きなもの、たくさん我慢してきたんですね」
気づいたら右手が魔王の頬に伸びていた。
ふ、と魔王の瞳が微かに見開いて、私はそこで自分のした行為に気づく。
「ご、か、勝手に触ってすみませっ、泣きそうな顔してたからつい…!」
慌てて手を引っ込めようとしたけど
魔王にその手をつかまれて、
「…うん」
魔王が私の手を、自分の頬に摺り寄せる。
「このままずっと我慢する人生なのかなって思った。
うちの会社のために、俺ずっと、こんなんなのかって思ったら死ぬほど辛くて。…家飛び出してた」
そうだったんだ…。



