「…っ」



呉葉さんがキュッと唇をかんで俯く。



…わかってる。


魔王は私のことを自分専用の召使いだって思ってるから、この言葉にそれ以上の深い意味はないってわかってるけど。



それでも純粋に…嬉しくなってしまう。




「…ねぇ。暁」




パッと顔をあげた呉葉さん。


さっきまでの険しい顔が嘘のように、にこやかな顔をしていた。




「お願いがあるの。
今日放課後、買い物につきあってくれない?」


「はぁ?買い物?」


「そう。お洋服を家から持ってくるのを忘れてしまって、全然ないの」




呉葉さんが視線を魔王から私にうつす。




「よかったら貴女も一緒に来ない?」



「え、わ、私も?」



「そう。暁の使用人さんだったら、婚約者として私も仲良くなりたいし。それとも何か今日は予定でも?」


「え、いやー…今日は別に…」




珍しく今日はバイトに入っていない。




「じゃあ決まりっ」


「俺も行く」




嬉しそうに両手を合わせた呉葉さんに、宮前龍太郎が感情の読めない平坦な声で言った。



「女2人に暁が囲まれてたら目立つだろ。俺がいた方が自然だ」


「ふーん?まぁどっちでもいいけど」




呉葉さんが「じいや」と呼ぶとどこからともなく執事らしきお爺ちゃんが現れた。



いつからそこに…!




「今日放課後、この4人で出かけるから。送迎よろしくね?」