「…父親についていく選択肢はなかったわけ?」


「もちろん、私はそのつもりだったんですけど…実は両親がうちの高校出身で。2人の出会いのエモい学校に、私を通わせたいって昔から話してたらしいんです。

で、私ひとりでこっちに残ることになって」



「じゃあお前、じゅうぶん約束果たしてんじゃん」




「…え?」





思いがけない魔王の言葉に、思わず聞き返してしまった。




「だって。両親の願い叶えてんだろ?現在進行形で。


で、一人でこっちで頑張ってる。けっこうすごいんじゃね?」





当然のようにサラッと言われた言葉が、深く染みわたってく。




私…願いを叶えてる?



お母さんの願いを?





すごい、なんて。考えたこともなかった。






「…あ…なんか味噌汁しょっぱ!」


「べつにそうでもねーけど」


「砂糖を足しましょう!!!」


「…待て。狂ったか?」






砂糖みたいに。


絶対に肉じゃがとも焼鮭とも白いご飯ともあわない、いちごミルクみたいに。





“すごい。がんばったね、りの!”





私はずっと誰かに



がんばったねって。褒めてもらいたかったのかもしれない。



――甘やかして、ほしかったのかもしれない。