そういえば、魔王とこの話をしたことはなかったな。




「あー…はい。知ってると思うんですが、うち貧乏なんですよ。1年くらい前に家業が潰れて。で、お父さんは出稼ぎに…」




…我ながら“軽くヨーロッパ周遊‘’との落差がひどい。




「母親は?」




だけど魔王は特に驚きも、バカにもしなかった。ただ淡々と聞いてくる。





「あー、お母さんは小さい頃に病気で…」




その時、魔王の表情が一瞬だけ歪んだ。





「……そっか」



「や、でも!けっこー小さい頃の話なんでもう大丈夫です!そりゃーたまに思い出したりはしますけど、さすがに整理ついてるっていうか」


「……ふーん」




麦茶を飲んだ。


魔王も白いご飯を食べて、いちごミルクを飲む。(ご飯といちごミルクも絶対にあわない…)




静かな食卓。不思議と居心地の悪いさは感じない。だからかな?




「…でも、」




話したい、とか特に思ったわけでもなく、



自然と口から零れ出ていたのは。





「たまに思うんですよね。お母さんとの約束、守れなかったなって」



「約束?」



「お母さんが死ぬとき…私に言ったんです、お父さんのことよろしくねって。

私がもっとがんばってれば。お店も潰れなくて、家族もバラバラにならなかったのかなって」