公然の秘密

加納の通夜から数日が経った。

「本当に大丈夫?」

これから打ちあわせに出かけると言う尾関に柚愛は声をかけた。

「仕事は待ってくれないからな。

それに」

「それに?」

「いつまでも悲しんでいたら、加納だって安心して成仏できまい」

尾関はそう言って口角をあげた。

「そうだね」

柚愛は返事をすると笑った。

「妹さんへのあいさつも先延ばしになっちゃったし…」

「それに関しては後で連絡して聞いておくから」

「うん、頼んだ」

玄関まで尾関を見送ると、
「行ってらっしゃい」
と、柚愛は彼にカバンを渡した。

「行ってくる」

尾関は返事をすると、柚愛からカバンを受け取った。

ドアが閉まる前に手を振ったら、その手を振り返してくれた。