公然の秘密

「母親には残業するから帰りが遅くなるって連絡を入れていたみたいだけど、実際に彼女が会社を出たのは７時を過ぎたくらいだったって。

タイムカードもその時間帯で切られていたし、防犯カメラにも彼女が帰る映像が映っていたから間違いないって」

尾関はそう言い終えると、
「何でだよ…」
と、今にも泣きそうな声で呟いた。

「やっと報われて、これからって言う時に…何でだよ…」

「…報われて？」

それは、どう言う意味なのだろうか？

柚愛がそう聞いたら、
「あいつ、結構苦労してたんだよ」
と、尾関は言った。

「中学生の時に工場で働いていた父親が機械の事故に巻き込まれて死んだんだ。

会社からはわずかな金が入ったそうだけど、まじめな父親が事故を起こす訳がない…のはわかっていたけれど、会社とやりあう金なんてなかったから泣き寝入りをするしか他がなかったんだって」

尾関は話を始めた。