それから数日が経った。

「さて…」

朝食を食べて着替えを終えると、メイクに取りかかった。

いつものようにメイクをして、最後に顔色をよくするために口紅を…のところで、手が止まった。

同時に思い出すのは…高天原さんとキスをしたことだ。

あの精悍な顔立ちが近づいてきて…ああ、本当にキスをされたんだ。

「な、何をしてんだ…」

ほんの数日前のことを思い出して赤面している自分が情けない。

わたしだっていい大人だ、30歳である。

「あっ、遅刻する」

口紅を引いて鏡を覗き込んで、自分の顔を確認する。

「うん、できてる」

忘れ物がないかの確認をすると、
「行ってきまーす」

誰もいないリビングに声をかけると、自宅を後にした。