「かんぱーい!」


翔の音頭で、カチンとグラスが当たる音があちこちで響いた。


俺は、というと。


幹部室にあったはずの俺の椅子が、広間の中央に置かれていた。


そこに座れと、言われて座っている。


じゃあ、隣に和佳菜がいるか、と訊かれれば、そういうわけではなく。


忙しそうにくるくると走り回っている。


料理作ったり、できたやつ運んだり。


ニコニコ笑っていて、楽しそうなのはなによりなんだが。


「…和佳菜」


近くに呼びつけて、堪らず抱きしめた。


「あ、総長が和佳菜さん抱きしめてる!」


ヒュー!


と、この上なくうるさい歓声が耳を鳴らす。


んなの無視だ、無視。


「なに?」


「ちょっとは休め」


ケラケラと明るく声を弾ませた彼女は、なんでもないように俺にこう言う。


「楽しいのよ」


それは知ってる。


お前が楽しそうなのも、全然苦にしていないのも、知ってる。


だが。


「お前が俺のために一番頑張ってくれたのはよく知ってる。でも、人一倍顔が疲れてるぞ」


目の下に隈が出来ているのを俺が見逃すはずがない。


笑顔に垣間見える疲れた顔は、誤魔化せないことを知っていて欲しかった。


「…それは!いい案が思い浮かばなくて…夜更かししちゃったことがあっただけで」


「そーやって俺を楽しませてくれんのは、ほんとありがたい。…けど、」


「喜んで、くれた?」


若干の涙声に、俺はようやく気づいた。


この子がなんのためにこんなに頑張ってくれていたのか。




…間違いなく、俺のためじゃねえか。