「Kanae……。ごめん……」

「マネージャーのせいではありません。私の力が及ばないからです。もっと、もっともっと、頑張ります」

事務所のお荷物、後輩にも負けている、売れない歌手。それらは、私を示す言葉であった。

「Kanae、待って!!」

「すみません、明日も学校なので……失礼します」

高校に通いながら、なんとか歌手をしている私、田村湊は、歌を歌うことが大好きだった。偶然、中学校の文化祭で歌を歌ったことで、今のマネージャーに熱烈にスカウトされて、そのマネージャーの事務所へ所属となった。

その当時は、社長もほかの人も、絶対に売れると太鼓判を押してくれて、私はとても嬉しかったのを覚えている。

しかし、蓋を開けてみれば芸能界の厳しい現実を見せつけられて。同時期にデビューした他事務所のアイドルや歌手のほうが売れているし、同じ事務所で後輩にあたるアイドルたちのほうが売れている現実。

悔しくないわけがなかった。

私だって売れたい、でもどれだけ努力をしても売れない歌手というレッテルは剥がれない。

「ああ、帰ってきたの」

「ただいま」

「そう」

母も、最初はスカウトをされたことを喜んで、芸能界でも頑張って、と応援をしてくれた。だけど、売れない日々にだんだんと失望をさせてしまった。今では期待も何もされていない。

明日も学校、と自分に言い聞かせて、宿題に取り掛かる。本当はすぐにでも眠ってしまいたいし、現実逃避だってしたい。

でも、努力をやめることもできない。だって、やめてしまえばそこで終わりだから。

「もっと頑張って、マネージャーに楽をさせてあげなきゃ……」

最初はチヤホヤされていた私であるが、売れないことがわかると、事務所ではお荷物扱い。マネージャーの立場も苦しい立ち位置で。そのマネージャーを笑顔にしてあげたい。私の歌で笑顔になっている姿を見たいのに、何一つ叶えられていない。

わざわざ学校も私立の篠川学園という芸能活動ができる学校を選んで外部受験をし、入学した。勉強は仕事に行っている生徒もいることから、それぞれの生徒に合わせた進度で出される。

私は仕事は少ないけれど、マネージャーが頑張って私のためにレッスンの時間をねじ込んでくれているから、練習ができる。レッスンの先生は、マネージャーと同じで売れない私に対しても真剣に付き合ってくれるから、その時間は本当にありがたい。

「これで勉強もできなかったら、本当に大変なことになる」

できるだけ成績はいい方を維持しようと手を抜かないように気を付けている。だから出される宿題も難しいものが多い。

「頑張らなくちゃ」

そうして、いつものように学校へ行きながらわずかな仕事をする。それが私の毎日だった。