駅前にはすぐに着いた。ここまでの距離をこんなに短く感じられたのは初めてだ。それもこれも、秀人と一緒だったからに他ならない。

「あの、私、歩きなのでここで」

和花は名残惜しくも別れを告げる。

「家はすぐ近く?送るよ」

秀人からの申し出は嬉しく二つ返事でお願いしたいところだったが、やはり遠慮してしまって口からは否定の言葉が紡ぎ出される。

「いいえ、大丈夫です」

「でもこの道暗いし、富田さんにも送れって言われたし」

秀人は道の先を指差す。
和花は秀人の言葉にため息をつきたくなるほどショックを受けた。あくまでも秀人はなぎさに言われたから和花と一緒に帰っているだけなのだ。一人喜んでいる自分が惨めに思えてくる。

「橘さん?」

黙ってしまった和花を秀人が不思議そうに覗き込む。悪気のない感じが余計に和花を苛立たせた。和花は持っていた紙袋を勢いのまま秀人に押しつけるように手渡す。

「佐伯さん、先日はありがとうございました。これよかったら食べてください。じゃあお疲れ様です」

言うだけ言って、和花は返事も聞かず逃げるようにしてその場を去った。

自分の気持ちが不安定だ。
秀人に対してイライラしたと思ったのに、お礼のパンを渡してしまったことについては心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。

(……渡しちゃった)

勝手に染まる頬の熱を振り払うかのように、和花は全速力で家まで帰った。