秀人の言葉通り会議が終わる時間になっても和花が呼ばれることはなく、そのうちに秀人も高柳も自席に戻ってきた。

三井に会わなくて済んだことに和花はほっと胸を撫で下ろす。あんな思いはもう懲り懲りだ。

しばらくして、秀人が和花の元へやってきた。

「今少し話をしてもいいですか?」

「はい、大丈夫です」

了解すると、秀人はその場に屈んで椅子に座っている和花と同じくらいの目線に合わせる。

大抵横に来たらそのまま立って話す社員が多い中、誰にでも威圧的な態度は見せない秀人の心遣いに、和花はいちいち感動した。

「橘さんにやってもらいたい仕事があります。部門費の集計なのですが、やったことありますか?」

「以前少しだけお手伝いしたことはあります。でも詳しくは知らないです」

「うん、それで十分です。毎月月初にデータを抜き出してもらう作業と、もしかしたらグラフも作ってもらうかもしれないですが、それは追い追いやっていきましょう。このチームは毎月請求書払いが多いみたいなので、把握したいんです。お手伝いしてもらえますか?」

「わかりました。ただ、私も初めてなので時間がかかるかもしれません。部門費の集計って難しいみたいですし……」

「そうなんですよ、僕も出してみたけどそこからの仕分けがよくわからなくて勉強中です」

「佐伯さんがわからないのに私でできますかね」

「僕は覚えが悪いので」

「いやいや」

「だから一緒にやってもらえると助かります」

図らずもドキッとした。
同じチームなのに普段あまり接点のない秀人と一緒に仕事をするなんて願ってもないことだ。