女を騙すわ、偽物を売りつけるなど、彼がこれまでにしてきた悪事の数々が、今回合わせて明るみになったのである。

「それで、弘徽殿の女御さまは?」
「出家なさるそうよ。帝はそれには及ばぬと言ったそうだけれど、どうしてもと言われて。親王は臣籍降下に決まったって。収まるべくところに落ち着いたってことね」

 親王の本当の父については公になっていない。確かめようもなく、口にできる話でもないので、有耶無耶に消えてしまうだろう。

「とにかく小雀が無事で良かったわ」
「うん。ありがとう」

「そうそう聞いたわよ」と笹掌侍が手を叩いた。
「月冴の君が助けに来てくれたそうね!」
「うん」

「聞かせて、どんなだったの?」

「ふふ。すっごく素敵だったわよ。『小雀、おいで』って袖を翻したの。こんなふうにね」

 小雀は袖を振ってみせた。

「閉じ込められていたのは埃だらけのあばら屋だったんだけど、彼が現れた瞬間、丁子の香りをのせた清らかな風が吹いたわ。ばったばったと男たちを倒して」

「きゃあ、素敵っ!」

 そう、彼は本当に素敵だった。

 ただし、今度ばかりは本気で叱られたけれど。

『どうして私に言わずにひとりで行ったんですか?』
 両手で顔を包まれて、くどくどと説教をされた。

 母にも佐助にも、無鉄砲ぶりをなんとかしないと命がいくつあっても足りないと怒られた。