優弦は念のためだと言ったけれど、何度も傷口の血を吸い出していた。薬を塗っただけでなく、その後しばらく飲むようにと煎じ薬を置いていった。
 熱が出た時もまるでわかっていたように落ち着いていて『熱が下がったらもう安心だ』と微笑んだ。

 彼はきっと毒に気づいていたに違いない。
(私が怖がらないように言わなかったのね)

「あなたは優弦に騙されているのですよ。あの男は偽善に満ちている。本心では東宮の座を狙っているくせに、あたかも興味がないふりをする」

 まるで歌でも歌うように冬野中納言は語った。

「騙されちゃいけないよ、小雀」

 冬野中納言は小雀に手を伸ばした。

「近寄らないで!」

 小雀は敵意を隠そうともせず払いのける。

「残念ね。あなたは月冴の君の足元にも及ばないわ。あなたは恥ずかしい人よ」
「ん?」

「聞こえなかったのかしら? あなたは痴れ者だと言ったのよ?」

 どうなっても構わない。いっそ鴨河原にでも捨ててくれればいいと小雀は思った。

 それなのに、冬野中納言はくすくすと笑う。

「かわいいねぇ。この状況でも元気いっぱいで、気が強いところもいい。優弦がお前にこだわるのもわかる気がするよ」

「は? あなたおかしいんじゃないの? 月冴の君は私のことなんて何とも思っていないわ」