「これは小雀の十二単だわ」

 笹掌侍は慌てて弘徽殿に人を遣わした。
「小雀を呼んできて」

 十二単は着るのは大変だけれど、脱ぐのは簡単だ。いわゆる、もぬけの殻である。

 小雀が着ていたはずの十二単が、そっくり捨て置かれていたのである。

 場所は雷鳴の壺と呼ばれる北西の最奥にある殿舎。
「どうしてこんなところに?」

 小雀を呼びに行ったものの、嫌な予感がする笹掌侍は校書殿へと向かった。もしかしたら優弦がいるかもしれないと思ったからだ。

 校書殿に優弦はいなかったけれど、頭中将がいた。

「おや、笹掌侍。どうなさいました?」
「小雀が、小雀が。お願い助けて!」

「何があったのですか?」

 頭中将に事情を説明し、直ちに優弦に知らせてほしいと頼んだあと、笹掌侍は麗景殿に行った。

 案の定小雀の姿はなく女房たちが心配していた。

「月冴の君に伝えてくれるよう頭中将にお願いしてきました」
「そうですか。ありがとう笹掌侍」

 小雀の局に行こうと振り返った笹掌侍は、ふと足を止めた。

 ひとりの女房がとっさに目をそらしたのだ。

 よく見れば肩が震えている。

「ちょっといいかしら、あなたはえっと、薄野よね?」



 ***



「はぁ」

 小雀は塗籠の中でため息をついた。

 見えるのは格子戸の先の青い空。

 ここは一体どこなのか。