「闇夜なら自由だからですよ。闇は私を隠してくれる。それだけです。義賊になる志もない。何の信念もない。私は少しも真面目なんかじゃない」

「そんなことありません」

 一体どうしたというのだろう。
 雲隠れの月のように、彼が闇に消えてしまいそうで小雀は怖くなった。

「いや、そうなんだ。権力が偏らないよう大納言という地位につき、さも立派そうにしているけれど、私は」「だめです」
 その先を言わせたらいけないような気がして、小雀は彼の声を遮った。

「だめ。そんなのだめ」
 怖くて辛くて、涙が溢れてくる。

「――小雀?」

「闇が好きだなんて、嫌です。鬼に連れていかれちゃう」

(そんなのはいや。あなたは大切な人なのに。京にとっても、私にとっても。いなくなってはいけないの)


「実はね、私は以前から君を知っていたんですよ」
 優弦は小雀の髪を撫でながら懐かしそうに言う。

「花鬼になったばかりの頃のあなたは、盗みには入れなくて、民に薬草や食料を配る役をしていたね」

 その通り、小雀は手下に連れられて配る役をしていた。

「覚えているかな。月明かりで草鞋を編んでいる子供たちがいた夜」

 小雀は頷いた。
「はい。こんなに小さいのに遅くまで働いてかわいそうにと思って見ていると、子供のひとりが言ったんです。『母さん喜んでくれるかな』って」

「私もあの時すぐ近くで見ていたんだよ」