草の絵と、それに並ぶ文字。和歌のようでもないし、なんだろうと目を止めると小雀の視線に気づいた彼は説明してくれた。

「校書殿から借りた冊子の写しですよ。大学で作物について調べてもらおうと思ってね。悲田院や施薬院の整備と同時に飢饉にも備えないといけないでしょう?」

「ああ……。三年前の飢饉は辛かったですものね」

 優絃は静かに頷く。

 三年前の飢饉は大変だった。
 貴族でも衣や調度品をわずかばかりの食料に変えたという話も聞いたし、羅城門のあたりでもやせ細った行き倒れの人がいたと聞いている。

 小雀たち紅鬼子も動きようがなかった。
 市井だけでなく、蓄えのない貴族。特に捨て置かれた姫は……。そこまで考えて小雀顔を曇らせる。

「できるだけ貯蔵がきく保存の仕方や、農民でも子供でもわかるように絵付きで作ってもらおうと思ってね」

「なるほど、それはいいですね!」

 そうか、これが本当の彼の姿なのかと思った。市井の子供に優しかったように、彼は民の幸せを考えている。
 ほんの少し、彼の胸の内が見えた気がした。

「月冴の君は、実は真面目な方なのですね」

「そう? 普通でしょ」

(どこがよ。なにもかもが普通じゃないでしょうに)

 とはいえ小雀はちょっと感動していた。
 この人は考えているだけではなく真剣に取り組んでいる。口だけじゃない。