茨ちゃんは勘違い

百合絵は笑顔を崩さぬまま、チョイチョイっと茨を手招きした。

「茨ちゃん、お願いがあるの。ちょっとここで片膝ついてくれない?」

逆らったら確実に「何かされる」し、応じても「何かされる」気はしたが、どのみち怖いので、茨は素直に従った。

「こ、こうで宜しいですか?」

少し吃り気味に敬語を使って訊ねる茨に、百合絵はより一層満面の笑みを浮かべ、頷いた。

「うん。暫くそのままね。動いたら駄目だよ」
「は、はい…」

窮地に立たされた茨に成す術は無く、言われた通りの姿勢を保つ。

百合絵は、茨に背を向けると、そのまま数歩遠ざかるように距離を取った。

目算で納得のいく「間」を掴んだのか、よしっと呟き、再び茨の方を向くと、こう言った。

「茨ちゃん」
「え?」
「天井に幸せの蒼い鳥が飛んでいるよ」
「え?マジで?」

百合絵の言葉を素直に信じた茨は、上を向く。

瞬間。





ズダダダダダダっ!!!





百合絵はクラウチングスタイルから、もの凄い瞬発能力でもって十あった距離を零に縮めた。

茨が気付くより早く。

百合絵は茨の床についてない側の膝、つまり90゚に立ち上がっているもう片方の膝を踏み台にし、宙へと舞い上がった。