茨ちゃんは勘違い

ビシッと青筋をコメカミに一本増やし、百合絵はなるたけ平静を保ちながら言葉を発した。

「いぃばらちゃ~ん?なぁ~んでこんな所に居るのかなぁ?ここは西校舎で二年とか三年のクラスがある所でしょぉ?用無いよね?ある訳無い。うん」

なんか軽く目から青白いフラッシュを焚いているように見える気がする程、眼を見開いて喋る百合絵は、「そのスジ」の方々よりある意味怖い。

しかし、全く空気の読めない茨は、普通にこう話した。

「あ、え~とね~凄いんだよ~ユリユリ~茨、ラブレターいっぱい貰ったんだよ~」

そう言いながら、「ほら」と、どこから取り出したのか大量の恋文を百合絵に見せる。

暴走はまだ終わらない。

「でね、でね!茨、まだお付き合いするのは早いと思うし、どうせ付き合うなら茨が好きになった人が良いから、全部お断りするのに回っていた…」
「茨ちゃん」

茨が最後まで言い終わらない内に、百合絵がそれを制す。

いつの間にか、さっきまで廊下中を覆っていた瘴気のようなものが消え失せている。

百合絵の表情は打って変わって穏やかになり、笑顔すら浮かべている。

こうなると、逆に怖い。

本能が訴えたのか、茨も動きが固まる。