茨ちゃんは勘違い

それはまるで、特撮ヒーローモノの悪役怪人のように低い声で、

「いぃぃいぃばぁぁあぁぁらぁぁあぁぁちゃぁぁあぁぁんん…」

と、文字通り目と鼻の先という距離で百合絵は相手の名前を呼んだ。

ただならぬ殺気を感じ、茨は恐る恐る声のする方へ視線を向けた。

眼前にあったモノは、人智を超えた表情をする百合絵だった筈の顔。

「ぬひゃぁぁあぁぁぁぁあぁぁっ!!??」

トンでも無い奇声を上げ、一目散に駆け出そうとする茨の首根っこをむんずと掴み、百合絵は再び元の位置へと茨を引き寄せた。

ガクブルが止まらない茨は、油の切れたロボットのようにぎこちなく首を動かし、歯をカチカチいわせながら、百合絵の方を向いた。

「あばばばば……あば?」

それまで、百合絵を百合絵だと認識出来ず、ファタジー世界の魔王か何かが自分を始末しに来たぐらいに思っていた茨は、自分の知っている顔がそこにあり、ホッと胸を撫で下ろした。

「な、なんだ百合ちゃんか。アタシ、デス○ートの死神でも来たのかと思ったよ」

立ち直りの早い茨は、あははと笑い、「もう!驚かせないでよ」とか言いながら百合絵の肩を叩く。

of course、そんな事をすれば、百合絵を逆撫でするに決まっている。