茨ちゃんは勘違い

…。

……。

………。

同時刻、西校舎廊下。



ヒタヒタ…

びしっ。ばきっ。



ただ歩く。

その単純な動きでさえ、窓硝子は百合絵の悍しいオーラに触れる度揺れ、ひび割れる。

最早特殊な磁場が発生しているとしか考えられないが、そんな事はお構い無しに百合絵は練り歩いていた。

コホー、コホーと呼吸音が暗黒面に堕ちたような感じがするのも、果たして気のせいなのだろうか。

百合絵が踏み躙る大地にはペンペン草一本も生えないとか、そんな噂が垂れ流されそうなその時だった。

前方から、言ってみれば親の仇のような、人畜全害のような、標的こと茨が、一仕事終えてスッキリ爽やかな顔で、二年D組の教室から姿を現した。

刹那。

人間の視覚が目標を捉え、脳に伝わり行動を起こすのに最速コンマ二秒。

そのコンマ二秒後には、瞬時に百合絵は茨の眼前へ猛然と駆けていた。

三秒後には、先のオーラをもう一回り鋭く放ち、察知した動物達は自分の住処へ逃げ出す程だったが、茨の鈍感力の凄まじさは常軌を逸脱しているので、まだアホ面な上に気付いていない。