茨ちゃんは勘違い

これまで、皆茨の事を、肝の座った度胸の塊みたいに思っていたが、違う。

この女、天然だ。

天然で、さも当然のように甲斐を振ったのだ。

その場にいる甲斐と茨を除いた全員が、その答に至った。

成る程、それなら躊躇いも無く甲斐を振ったのも頷ける。


「ねぇ?あれ?おかしいよね?皆?」

未だ自分が置かれた状況が把握出来ない甲斐は、近くに居たクラスメイトに虚しい同意を求めようとする。

「僕が、フラれた?あは?そんな訳…」

無い、と言おうとした甲斐に、男子生徒の一人が肩にポンと手を置く。

「落ち着いて聞け…甲斐…」
「え?」

至極、真面目な顔で、ストレートに男子生徒は言った。

「お前は、今しがた、キッパリ振られた」



ガン。



まるで鈍器で殴られたように、甲斐の顔が跳ねる。

「しかも、トビッキリの不細工に、だ」



ガン、ガコン。



その男子生徒が事実を曲げる事無く伝える毎に、甲斐は左右に首を激しく揺らした。

「受け止めろ。この現実を」



ズガン。



そこで甲斐の精神はもたなかったのか、最後に大きく後ろに吹っ飛ぶと、そのまま沈黙した。