茨ちゃんは勘違い

百合絵は、上手くキャッチが出来ず、宙に二三回跳ねあげた後、ドリンクホルダーを受け止めた。

ホッと溜息を吐くと、背を向けて走り去る桜を見つめて独り言ちた。

「いいなぁ……運動出来る人は……」

　補修地獄の茨と違い、夏休みは夏休みとして休める筈だった百合絵だったが、丁度連休開始直後ぐらいに水泳部の合宿、終わってそのまま部活動、そして大会……という別の地獄メニューをこなす羽目になった。
　百合絵が溜息を吐きながら桜の後ろ姿を眺めていると、黒酉が声をかけてきた。
「おい、試合が始まるぞ。早く準備しろ」
「は、はい」
　気づけば競泳女子４００Ｍメドレリレーという、大会の佳境に入っていた。
　個人メドレーが、バタフライ→背泳ぎ→平泳ぎ→自由形なのに対し、メドレーリレーは背泳ぎ→平泳ぎ→バタフライ→自由形という順番になっている。
　桐海暁は準決勝を二位で通過。
　競泳では、成績の良かったチームがセンター寄りの配置になるので、８コースあるプールの３コース目に選出された。
　桜は一年の身でありながら身体能力の高さを買われ、三番目の泳者としてバタフライを泳ぐことになった。
　そして、桐海暁水泳部エースでもある畑山は、アンカーで自由形の泳者として、皆の期待を背負う。