役目を終えた携帯をそのまま耳から離し、ベットの上に落とすと、百合絵は無言で立ち上がりクローゼットの前に向かった。

地獄の門を開けたかのような、黒板を十人がかりで引っ掻いたような不協和音が部屋中に響き渡ると、中からボロ雑巾のように成り果てたサンドバックが顔を出し、それを百合絵は無造作に引っ張り出した。

そこら中痛んだ鎖を定位置にくくりつけると、百合絵は額を押し付けたまま無言でボスボスと中心部分を叩き始めた。

暫くすると、ブツブツと独り言を言い始め、次第に打つ手を強めていく。

サンドバックが中綿をはみ出し始めた頃合いで、

「うがぁあああああぁあああああっ!!!!」

百合絵は叫びながら、鎖ごとサンドバックを引き千切った。