茨ちゃんは勘違い

先に口を開いたのは、安部であった。

「ちょっとちょっとちょっと~!君ねぇ、君、城山さん……だっけ?折角助けたのに、お礼もナシかい?」

まだペタンと座り込んでいる茨に向かって食って掛かる安部。

何の事やらと、パタパタ瞬きをする茨を見、ほぅっと溜め息を吐くと、さらに続ける。

「なんだ、助けて損したよ。やっぱそんなモンか。結局、顔がアレな奴は、心の中も……」
「安部君……だっけ?」

罵詈雑言を浴びせようとした安部を、木更津が間に入る。

「そうだけど……」
「悪いけど、君はプールに飛び込んだだけで、何もしちゃいないだろう?城山さんを助けたのは僕一人だ。勘違いしないでもらおうか」
「なっ……!」

髪を掻き上げて、スパッと吐いた台詞が茨達を少しドキリとさせる。

(あ、あかん……)
(ちょっとカッコいいと思ってしまったやん……)

何故か女子一同、関西風で胸を高鳴らせる。

思えば、ナレーションが勝手に「イケメン、イケメン」と祭り上げているだけで、これまで格好良さげな場面が一度も出ていない。

ここに来て、ようやく木更津の花が開いたのかもしれない。