車へ戻る禄朗の姿に、Allyは喜び涙を潤ませながら「禄朗のばか!!」と怒った。

 緊張がとけたのだろう。禄朗に文句を言いながら、意識を失うように眠ってしまった。

「Allyはずっと心配しながら、ここまで連れてきてくれたんだ」
「そうか」

 禄朗はバックミラー越しに、Allyへ優しい視線を向ける。ハンドルを握る禄朗のリラックスした姿に助手席の優希は口元を緩めた。こんな時間って何年振りなんだろう。

 昔も時々ドライブに連れて行ってもらった。写真を撮るのがメインだったけど、そんな姿を眺めているのが好きだったなと懐かしく思う。

 またこんな風に過ごせるなんて思っていなかったから、すごく嬉しくて幸せで、ここまできてよかった。


 ノンストップでケイトの元へ戻ると、長い説教が禄朗を待っていた。

 あの傲慢で誰にも跪かない禄朗を正座させ、延々とお小言を浴びせている。その隣に一緒に座りながら穏やかそうなケイトの怖さに驚きながらも、優希は一緒に怒られた。

「ごめんて」
「ごめんで済みませんよ!!子供じゃあるまいし、勝手にいなくなって!!!」

 雷を落とすってこういうことなのかもしれない。声の迫力に飛び上がらんばかりになる優希の隣で、禄朗も肩をすくめている。

「申し訳ありませんでした。ここから挽回できるように馬車馬のように働かせていただきます」

 深々と頭を下げる禄朗に、ふん!と荒い息を吐いた。

「当たり前です。ここまでの損失は速攻埋めてもらいますから覚悟してくださいね」

 ビシビシと容赦のないケイトの様子にAllyは慣れたように頷いている。

「で?逃げた理由は何ですか?」

 続けるケイトに禄朗はポツリポツリと答える。

「理由っていうか……初心に戻りたかったんだよ。写真もうまくいかないし、なにもかもダメで足元がぐらついて……自分の気持ちを見つめなおしたくて……すぐ帰るつもりだったんだ」

 クライアントがつくとともに、求められることが増えて撮りたい写真との乖離(かいり)が進んでしまったこと。華やかな禄朗とパッケージしてエキセントリックな写真が求めれられるようになってしまったこと。

 自分らしさと、需要とのバランス。仕事だから求められることには応えるけど、それは本当に撮りたかった絵ではない。

 なぜ自分が写真を撮るのか。何を撮りたいのか。それを見つめなおしたくて、ほんの少しひとりになりたかった。