荷物を開けて、写真をベッドの上に広げた。優希に見せてあげたいと囁いたあの場所をみつけなければ。きっとそこにいるに違いない。たった一人で、膝を抱えて空を見上げる禄朗を想像した。

 そしてふと気がついた。日本で開催された個展以来、禄朗の写真から空が消えている。

 色が変わりゆく空や星空が好きで、真夜中に出歩いては体を冷やして帰ってきた禄朗。ベッドにもぐりこんできた体の冷たさに文句を言いながらも、温めてあげると幸せそうに笑っていた。そんな彼から空が消えている。

「ぼくが禄朗のオリオン。それをなくしたから……?」

 決定的な別れ以来禄朗は空を失った。こんなことを考えたのは傲慢だろうか。

 優希がいない。道を見失った禄朗はたったひとりでどこへ向かっていいのかわからずにさまよっている。見上げても何も先を記すものはない。

 帰る場所も進む場所もなく行き場を失って途方に暮れているのかもしれない、という想像に強く胸が締め付けられた。

 こんなことは優希が勝手に考えているだけで、今頃新しい恋人とハネムーンの最中なのかもしれない。

 優希一人がいなくなったところで傷一つついていないのかもしれない。いまさら何を言っているんだと笑われるだけかもしれない。

 それでも笑う禄朗を見たかった。傲慢とも思えるほどの力強さで優希を翻弄してほしかった。

 お前なんかもういらないよ、と言われたとしても不敵な禄朗に会いたかった。

 ネットを立ち上げ、星の見える場所を検索する。大きなオリオンが見つかる場所。禄朗がつれていってやりたいと言ってくれたあの場所はどこだったんだろう。

 広大な面積を誇るアメリカには日本以上に星の見えるスポットは点在する。メジャーな場所じゃなくてもちょっと街から外れるだけで、あきれるほどの星空が見えるらしい。

 禄朗の写真とネットに上げられた情報を見比べながらサインを探す。

「優希?」

 遠慮がちなノックの後にケイトが顔を覗かせた。

「起きてますか?食事の用意ができていますが……」

 そうして散らばる写真に目を止め、静かに笑みを浮かべた。

「禄朗の写真?」
「あ、すみません。気がつかなくて……」

 集中していたせいか、窓の外が暗くなっていることにも気がつかなかった。お世話になるというのに部屋にこもったまま何の手伝いもしていないと、慌てて立ち上がる。