残業だと嘘をつきながら、禄朗の逢瀬を重ねていた。何度も体を重ね、気だるいまま明日美の待つ自宅へと帰る日々。抱き合うたび思いはあふれて、自分の行動を止めることができなかった。

 寝不足の目をこすりながら目を覚まし、キッチンへ向かう。いつもの清潔なダイニングに朝食を並べていた明日美が笑みを浮かべて、優希を振り返った。

「おはよう。今日はどうする?」
「どうするって、何かあったっけ?」
「やだ、自分の誕生日も忘れたの?」

 クスクスと優希の裏切りを微塵も感じていないように、無邪気に笑った。

「お誕生日おめでとう!」
「あ、そっか。誕生日か、忘れてた」

 おなかに手を当て「おかしなパパですねえ」と子供に話しかける。まだ産まれていないのに、女は妊娠した時から母になるらしい。ズキリと胸が痛む。

「特になにも考えてなかったよ」
「そう?じゃあ、家でパーティーでもしようか」
「体も本調子じゃないから無理しなくていいよ」

 つわりが軽いほうらしいけど体調には波があるらしく、時々横になってだるそうにしている。

「二人きりの最後の誕生日だし、何かお祝いしたいの」
「あ、……そうか」

 来年の今頃は子供が生まれているということに実感がわかない。優希は困惑を含みながらも頷いた。

「任せるよ」
「わかった。がんばっちゃおうかな」

 楽しそうに鼻歌を刻みだす明日美から視線を離し、小さく息をつく。どうしようかと思えば思うほど、心が重い。