颯ちゃんのごはんは、今日も美味しい。
でも、それもコウにとっては久しぶりのことだ。
本当の妹でもない私がずっと味わってきたのに、すごく申し訳ない。
年の離れたお兄ちゃんを、他人の私が独占してきたんだから。
「それはコウが悪い。無言で女の子の背後に立ってるなんて、叫ばれて当然だろ」
「別に、こいつの後ろを歩いてたわけじゃない。目的地が同じだっただけだろ。じゃ、なに。追い抜けばよかったわけ? 」
「名乗って、一緒に帰ればよかったって言ってるの」
「それこそ、不審者になりかねないと思うんだけど」
あれから――あの事故が起きてから、何が何だか理解できない間に、コウは寮のある学校へと行ってしまった。
私が、大人しく親戚の家に身を寄せればよかったんだ。
何度も颯ちゃんにそう言ったけれど、颯ちゃんは困ったように笑って「そうじゃないんだよ」としか言ってくれなかった。
本当の兄弟を引き裂いて、今の今まで面倒を見てもらうなんて。
(いい加減、線引きしなくちゃ。私は元々ただのご近所さんで、他人で、今はれっきとした大人)
「美月。ダメだって言ったろ」
「……何も言ってないよ」
顔に出したつもりはなかったけれど、颯ちゃんはお見通しだ。
「別に、大袈裟に考えすぎ。就職決まって、一時的に帰ってきただけだから。部屋決まったら、すぐ出てく」
「……そっか! もうそんな時期なんだね。おめでと……」
「忘れてた……ってか、知らなかったんなら、そんな口先だけの言葉要らね」
「航大。いい加減にしろ」
(……覚えてる。コウのこと忘れてないし、知ってたよ)
なのに、今思いついたみたいな口調になってしまった。
コウは、単に怒ったんでも呆れたのでもない。
私の浅はかなその場しのぎが見抜かれたんだ。
「とにかく、ほんの少しの間だけだから。俺に構わず、今までどおりのほほんと暮らしたら」
「本気じゃないの、バレバレだぞ。美月が楽して生きてきたわけじゃないって、誰よりお前が分かってるくせに」
(……そうだよね)
コウは理由もなく人を傷つけるような人間じゃない。
私といたくなくて家を出たのが本当だとしても、ここまで私を牽制する原因は何だろう。
何にしても、私に近づいてほしくないのかもしれないな。
「颯ちゃん、いいの。コウくんもごめん。せっかく帰ってきたんだし、コウくんこそ私に気を遣わずに颯ちゃんと過ごして。……明日の準備あるから、行くね」
「みづ……。……ったく、お前は。他にやりようがあるだろ」
シンクの方へと向かいながら、後ろで颯ちゃんの少し苛ついた困り声を聞く。
洗い物をしながら、なるべく兄弟の会話が聞こえないように集中した。
――「昔みたいに」。それってもう、無理なのかな。



