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今日は早く帰らないと。
連日連絡なしに遅くなると、冗談抜きに颯ちゃんがお迎えに来てしまう。
というか、もともと颯ちゃんは冗談を言うタイプではないし、冗談が通じないタイプでもある。
「まだ明るいからいいよね」
駅を出ても、まだ真っ暗にはなっていない。
事前に連絡しろと颯ちゃんは言うけれど、残業かどうかは直前まで分からないし、何時に終わるとも言えないのだ。
だから、つい、そのまま帰宅してしまうのだが。
(……ん……? )
後ろの人、ずっと着いてきてるような。
さっきの角を曲がった時、ちらりと男の人が見えた気がする。
(ま、まさかね。つけられてるなんて)
そんなの、自意識過剰だし失礼だ。
たまたま、帰る方向が一緒なだけ。でも――。
『このへんにも発情してる獣はいるかもよ』
(でも、念のため……! )
その後にも何か付け足された気がするけど、気をつけるに越したことはない。
駆け出したい気持ちを抑え、早足で進む。
振り向くと怪しすぎるからできないけれど、その分一心不乱に足を動かした。
(や、やっと着いた……)
大した距離じゃないのに、緊張しているからか息が切れる。
よろよろでドアノブに手を掛けて気づく。
(…………影? )
玄関のライトに照らされた足下に、なぜか自分のものじゃない影が――。
「……っ、そ、颯ちゃん……! すっ、すと……ストーカー……!! 」
「誰が。せめて、相手選ばせろよ。相変わらず、失礼な女」
鍵を開けるのなんて忘れて、ドアをドンドン叩く私に心底馬鹿にした声と冷ややかな視線が注ぐ。
でも、その声に聞き覚えがあって、恐る恐る振り返る。
「……え……相変わらず……? 昨日の……? 」
「……航大。言っても、思い出せないかもしれないけど」
――航大。
じゃあ、私の後をつけてたんじゃなくて、自分の家に帰ってきただけ。
「そ、そんなことないよ! でも、声掛けてくれたらよかったのに。っていうか、昨日……」
「あのさ」
私の抗議と歓迎を遮り、航大くんは一息吐いた後言った。
「前にもいったけど。俺、お前のこと嫌いだから」
分かってる。
私は、お気楽でお調子者の迷惑な幼なじみだ。
正直に言うなら、「でも、傷つかないわけじゃない」って言いたい。
それが言えないのは、おまけに私は諦めが悪い女だから。
気づかないふりをすれば、忘れたふりをすれば、もう一回だけ航大くんに話しかけることができる――嫌な思いをさせると知っていて、そんな狡いことを考えては繰り返している。
迷惑極まりない、幼なじみという名のただの厄介者だ。



