・・・



『コウ』

いつも、寂しそうに独りでいたな。

『うるさいな。ほっとけよ』

そう言うくせに、まるですがるみたいに見上げられると放っておくなんてできなかった。

『颯大といればいいだろ』

『……コウとも遊んだらだめ? 』

その口癖も聞き飽きたのに、何度繰り返しても上手く伝えられなかった。

『……ダメ』

『なんで……? 』

本当は分かってるよ。
だって、この前も同じやり取りをしたばかりだもの。
その証拠に小さな私ですら先が見えていて、目に涙を溜めている。

もう帰らなくちゃ。
コウの部屋、好きだけど。
コウのことだって、大好きだけど。
だけど、だってね。

『……俺は、美月のこと大キライだから』


・・・


「……づ。おーい、みづちゃん」

「……っ、な、なに? 」

気がつくと、同僚で親友でもある凛が私の顔の前で手を振っていた。

「なに、じゃないよ。仕事中に寝てるのかなって思ってそっとしとこうかと思ったら、目が逝ってたから心配で」

「そこは起こしてよ」

彼女をつっこむふりをしながら、数回瞬きをして見えたのは、ちっとも進んでいない仕事。

「悩みごと? 言ってよ」

すぐ相談してもらえなかったと不服そうに、彼女の頭の上の耳がピンと立ち、そのくせしゅんと下がってしまった。

「ん……言ったかな。航大くんのこと。帰ってくるんだって」

「え!? 例の颯大さんの弟だよね。ずっと音信不通だったんじゃなかった? 」

席を立ったと同時に尻尾が揺れる。
シーッと諌めてみても、ゆさゆさしているのが可愛くて苦笑した。

「そう。……私のことが嫌いで、出てっちゃったんだけどね」