『ごめんね、困らせちゃったなぁ』
髪を整えるかのように頭を撫でる煇先輩。
「…先輩、」
『なに?』
「私は、先輩を利用したくないです…」
『利用してもいいよ…』
「私が嫌なんです…」
『なんで?』
「じゃないと、先輩が傷つくからっ…」
『傷付かないよ』
手を握って先輩は微笑んだ。
『〇〇ちゃんに、拒否られた方が傷付くなぁ…』
眉を下げてそういう煇先輩。
『俺が花ちゃんの上書きになってあげる、空なんてこれっぽっちも好きじゃないって思うぐらい忘れさせる自信あるよ…だから、俺のとこにきて?』
黒い揺れる瞳に吸い込まれそうだ。こんなことを言われるのは、初めてだ…。
このまま煇先輩を好きになれたらいいのに…だけど頭に出てくるのは空先輩の笑った顔でここで首を縦に振ってもいいのか、わからない。
サァッと風がふけばなんだか空先輩の香水の匂いがした気がした。まさかだと思った。
「…先輩…!?なんでっ、…」
目の前にいる煇先輩よりも奥にいる空先輩の方に意識がいく。
うそ、いつからそこに?
空先輩はすごく驚いた顔をしていて、申し訳なさそうに口パクで
『…ごめんね』
と言ってその場を去って行った。煇先輩を押しのけて空先輩を追いかけようとするけど
『花ちゃん、行かないで、』
いつもヘラヘラと笑ってるのにこんなにも弱々しい煇先輩は初めてでその手を振り解くことが、難しかった。
私は何を迷っているのだろう