辰美は一人悩んだ。雪美と会ってから二週間。事態はなにも解決しないまま、時間が過ぎていた。
あれから何度か雪美からメッセージが届いた。内容は復縁を迫るものから会いたい、もう一度話したい、両親と会って欲しい、全て一方的なものだった。
その全てを無視し、ダンマリを決め込んだが、雪美は諦める気配がないようだ。
流石に連日送られてくると辰美も参っていた。困っている、助けて欲しいと懇願したかと思えば、いざこちらが冷たい態度を見せると逆上してまくし立てる。一向に埒があかない。
恐らく自分一人ではどうにもできないことだ。以前離婚する際に世話になった弁護士に相談すべきだろうか。だが、それだと大事いなってしまうかもしれない。
できればもうあのような経験はしたくない。ただ疲れるだけだ。
「辰美、一緒に昼飯でもどうだ」
昼休憩、辰美は同僚の藤崎に誘われて会社の外に出た。一人だと雪美のことばかり考えてしまうから、誰かといたほうがちょうどいい。
定食屋に入ると、藤崎と向かい合わせになって席に着いた。
「二日酔いか? 顔色悪いぞ」
そう言われ、自分の頬を触る。そうかもしれない。眠れていないからどこか落ち着かない。こんなことをしていても雪美に見られている気がしてならない。
「ウコンでも買ってきてやろうか」
「いや……違うんだ」
辰美は一瞬、藤崎に相談しようか迷った。入社時から一緒に働いている同僚だ。藤崎は結婚していないが。何かいいアドバイスをくれるかもしれない。
「実は……別れた妻から連絡が来たんだ」
辰美が深刻な声音で言うと、藤崎はえっと驚いた後身を乗り出した。
「別れた妻って、雪美さんのことだよな?」
藤脇は結婚式にも招待している。家にも何度か遊びにきたことがあった。だから、雪美とは顔見知りだ。
「まだ連絡取り合ってたのか?」
「違うんだ。あれから一度も連絡してない。なのに唐突に連絡してきて、会ったらやり直したいって言われたんだよ」
「そりゃ……」
藤崎は言葉にならないのか、苦い顔のまま口をぽかんと開けた。
「雪美さん、浮気で離婚したんだろ? 相手はどうしたんだ」
「知らないよ。本気じゃなかったとか言ってたが……」
「……別れた後寂しくなって、結局お前のところに戻りたくなったのかねえ」
「どう、思う?」
「お前はどうしたいんだ?」
「俺は雪美と再婚するつもりはない。付き合っている女性が……いるんだ」
「そうなのか?」
「……ああ」
藤崎は一転、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「よかったな。じゃあ、付き合ってる女がいるからお前とは無理だって言って断ればいいんじゃないか」
「言ったさ。けど……納得されなかった」
二人で黙り込む。その間に定食が来たが、箸はなかなか進まない。
できれば言葉で説明して、雪美に諦めてもらいたいが、雪美は美夜を敵視しているように見えた。恐らく彼女がいると言っても絶対に納得しない。
「今更なんだが、俺前から思ってたんだよな。雪美さん、完璧主義だったろ? お前が気のいい奴だからよかったけど、そうじゃなかったらもたなかったよ。結婚してない俺が言うのもなんだけど、付き合うなら優しい女の方がいいよ。気の強い女はダメだ」
「ひどい性格ってわけじゃなかった。けど、離婚の話が出てからは情緒不安定というか、喜怒哀楽が激しいというか、なんていうか、本当に頭のおかしい人を相手にしてる気分になるんだ」
元妻に失礼かもしれないが、雪美と話すとゾッとした。追い詰められた人間というのはあそこまで人が変わるのだ。
「お前が無理だと思うんなら、離婚の時に頼んだ弁護士にお願いしてみたらどうだ? 激情した女は恐ろしいからな」
「ああ……俺もそうしようと思ってたところなんだ。わかった。連絡してみるよ」
もしかしたら何か穏便に解決できる方法が見つかるかもしれない。
あれから何度か雪美からメッセージが届いた。内容は復縁を迫るものから会いたい、もう一度話したい、両親と会って欲しい、全て一方的なものだった。
その全てを無視し、ダンマリを決め込んだが、雪美は諦める気配がないようだ。
流石に連日送られてくると辰美も参っていた。困っている、助けて欲しいと懇願したかと思えば、いざこちらが冷たい態度を見せると逆上してまくし立てる。一向に埒があかない。
恐らく自分一人ではどうにもできないことだ。以前離婚する際に世話になった弁護士に相談すべきだろうか。だが、それだと大事いなってしまうかもしれない。
できればもうあのような経験はしたくない。ただ疲れるだけだ。
「辰美、一緒に昼飯でもどうだ」
昼休憩、辰美は同僚の藤崎に誘われて会社の外に出た。一人だと雪美のことばかり考えてしまうから、誰かといたほうがちょうどいい。
定食屋に入ると、藤崎と向かい合わせになって席に着いた。
「二日酔いか? 顔色悪いぞ」
そう言われ、自分の頬を触る。そうかもしれない。眠れていないからどこか落ち着かない。こんなことをしていても雪美に見られている気がしてならない。
「ウコンでも買ってきてやろうか」
「いや……違うんだ」
辰美は一瞬、藤崎に相談しようか迷った。入社時から一緒に働いている同僚だ。藤崎は結婚していないが。何かいいアドバイスをくれるかもしれない。
「実は……別れた妻から連絡が来たんだ」
辰美が深刻な声音で言うと、藤崎はえっと驚いた後身を乗り出した。
「別れた妻って、雪美さんのことだよな?」
藤脇は結婚式にも招待している。家にも何度か遊びにきたことがあった。だから、雪美とは顔見知りだ。
「まだ連絡取り合ってたのか?」
「違うんだ。あれから一度も連絡してない。なのに唐突に連絡してきて、会ったらやり直したいって言われたんだよ」
「そりゃ……」
藤崎は言葉にならないのか、苦い顔のまま口をぽかんと開けた。
「雪美さん、浮気で離婚したんだろ? 相手はどうしたんだ」
「知らないよ。本気じゃなかったとか言ってたが……」
「……別れた後寂しくなって、結局お前のところに戻りたくなったのかねえ」
「どう、思う?」
「お前はどうしたいんだ?」
「俺は雪美と再婚するつもりはない。付き合っている女性が……いるんだ」
「そうなのか?」
「……ああ」
藤崎は一転、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「よかったな。じゃあ、付き合ってる女がいるからお前とは無理だって言って断ればいいんじゃないか」
「言ったさ。けど……納得されなかった」
二人で黙り込む。その間に定食が来たが、箸はなかなか進まない。
できれば言葉で説明して、雪美に諦めてもらいたいが、雪美は美夜を敵視しているように見えた。恐らく彼女がいると言っても絶対に納得しない。
「今更なんだが、俺前から思ってたんだよな。雪美さん、完璧主義だったろ? お前が気のいい奴だからよかったけど、そうじゃなかったらもたなかったよ。結婚してない俺が言うのもなんだけど、付き合うなら優しい女の方がいいよ。気の強い女はダメだ」
「ひどい性格ってわけじゃなかった。けど、離婚の話が出てからは情緒不安定というか、喜怒哀楽が激しいというか、なんていうか、本当に頭のおかしい人を相手にしてる気分になるんだ」
元妻に失礼かもしれないが、雪美と話すとゾッとした。追い詰められた人間というのはあそこまで人が変わるのだ。
「お前が無理だと思うんなら、離婚の時に頼んだ弁護士にお願いしてみたらどうだ? 激情した女は恐ろしいからな」
「ああ……俺もそうしようと思ってたところなんだ。わかった。連絡してみるよ」
もしかしたら何か穏便に解決できる方法が見つかるかもしれない。



