鎌倉駅の近くで車を停め、美夜と辰美は駅の近くを歩いた。

 駅の東側にあるロータリーに行くと、赤い鳥居が見える。美夜はスマホでマップを見ながら説明した。

 土日だけあって人は多い。通りには左右に店が並んでいるが、人気の店には行列ができていた。

「美夜さんはこの辺りはよく来たのか」

「うーん、友達と何回か。でも、その時から何年も経ってるからお店も入れ替わってるみたいです。私が知らないお店も多いですよ」

 とはいえ、ほんの十年ほど前の話だからそれほど変化はない。流行りの店が何店か入っていたが、あの時と雰囲気は同じだ。

 辰美と一緒に店を見て周りながら食べ歩きをした。それはなんだか不思議な体験だった。今までも同じようなことをしたことがあるのに、辰美と一緒だと初めてするような気分になる。多分、辰美が歳上だからだろう。

 二人で歩くのは楽しい。ただ街を歩いているだけなのに、なぜだろう。辰美の隣にいることがとても特別なことのように思えた。

 鶴岡八幡宮の前まで行くと大きな鳥居があった。懐かしい景色だ。学校の修学旅行で来たことを思い出した。この前で集合写真を撮ったのだ。

 周りにいる観光客も記念撮影している。美夜は思い切って誘った。

「ね、辰美さん。せっかくだから写真撮りませんか」

「ま、まさか美夜さんもあの自撮り棒ってやつで写真を撮るのか……?」

 辰美は外国人の観光客を見て恐る恐る言った。

「持ってませんよ。普通に手で撮ります」

 クスッと笑い、辰美の横に立つ。多分辰美は自撮りなんてしないのだろう。なんだか気まずそうな様子でカメラを見ていた。

「辰美さん、ちゃんと笑ってください」

「いや、すまない。ちょっと慣れなくて……」

「一瞬ですから」

 ふと、近くを歩いていた二人組の女性が美夜達を見た。なんだかジロジロと見られている気がする。その口元が動く。

「親子?」

「それにしては距離が近いんじゃない」

「いやだ、気持ち悪い。いい歳こいた大人が……」

 美夜は咄嗟にカメラに映った辰美を見た。辰美は女性には気が付いていないようだ。なんだか恥ずかしそうにレンズを見ている。

 ────分かってる。こんなこと、分かってた。

 以前、街を歩いた時も感じた。自分と辰美を見る周りの視線。ジロジロと物珍しそうに、そしてこっちの気も知らないで、平気で自分の価値観でモノを言う。

 いくら辰美が若く見えて、おしゃれで、優しく、紳士的でも────。

 美夜はぎゅっと辰美と腕を組んだ。

 ────辰美さんは、素敵な人なんだから。誰がなんと言おうと、私は分かってる。

 自分はいい。こんなこと屁でもない。でも、辰美はきっと気にしてしまう。ひどい言葉を言われたら自分は美夜に相応しくないと言うだろう。また触れることに躊躇ってしまうかもしれない。もしかしたら、ライブにも来てくれなくなるかもしれない。

 辰美と一緒にいたい理由がまた増えた。最初は好きだから。そして、幸せにしたいから。そして今は、守りたいから。

 辰美の横に立つ自分を特別に感じた。それはきっとこの恋が幸せだから。