スマホのアラーム音がけたたましく鳴り響く。
美夜は煩わしいその音を止めようとベッドの上から何度か床の上を叩いた。数度目の正直、アラームがやっと止まる。
朝はカフェのバイトがあるため早く起きなければならないが、なんだか眠い。多分、昨日夜更かししてしまったせいだ。
辰美から送られて来たメッセージを眺めていたらいつの間にか眠ってしまていた。
────結局、返事返せなかった。
半開きの目でメッセージアプリを開く。辰美のメールを開いて、ぼんやりと見つめた。
どうして返せなかったのだろうか。話したいと思っているのに、なぜだか怖くて出来なかった。
昨夜、辰美はストリートを見に来てくれた。そこまでは良かったのだが、なぜかまたあの女性が横にいた。しかもまた楽しそうに話している────ように見えた。
この間のライブは分かるが、どうしてストリートまで連れて来るのだろう。誘ったのはどちらだろうか。辰美なのか、それともあの女性なのか。
邪推しすぎかもしれない。あの女性はCDも買ってくれたし、自分の演奏を気に入ってくれたのかもしれない。それで二人で来た。
ポジティブに解釈することもできるのに、嫌なことばかり考えて結果辰美に返事を書けなかった。
────どうしよう。辰美さん変に思ってるかな。
昨夜の人の入りは上々だった。物販は出来なかったが、聞いて、名前を覚えて帰ってくれただけでも十分だ。普段もあれぐらい人が集まればいいのだが、あれはたまたま場所が良かったからだろう。
せっかく辰美にもいいところを見せれたのに、素っ気なくしてしまうなんて。
こんなことで悩んでなんていられない。美夜はようやく起き上がり、朝の支度を始めた。
「ええ? イケオジ彼氏に変な女が近付いてる?」
詩音の素っ頓狂な声がレジに響き渡った。美夜は慌ててしーっと人差し指を構えた。
「ちょっと詩音ちゃん! 声大きい!」
「ご、ごめん」
なんとなく不安が膨れて、自分では消化出来なさそうだった。だからこそ辰美を知っている詩音に話したのだが、早すぎただろうか。
「でもさ、イケオジも酷いんじゃない? わざわざ彼女のライブに別の女連れて来るなんて」
「いや、それは……最初ファンに疑われるから、付き合ってることは隠しておこうってなって、それでライブに部下の女の人連れて来るって話になって……」
「でも美夜ちゃんは嫌なんでしょ?」
「嫌っていうか、なんか、その人辰美さんとすごく距離が近いっていうか……」
すごく慕っている、という空気感を漂わせてくる。と言った方が正しいだろうか。
いや、ただの勘違いかもしれない。毎日一緒に仕事している部下なのだ。距離が近いのは当然のことだ。それに文句をつけるなんてあまりにも子供ぽい。
「部下と浮気ってよく聞くけど……」
ドクン、と心臓が跳ねる。この間見たテレビ番組を思い出した。
「人気のある役職者ってモテるんだって……」
「う……た、辰美さんは浮気するような人じゃないよ」
「それはともかくとして、美夜ちゃんが嫌なんだったら一度ちゃんと話ししたら? 現時点では浮気してないかもしれないし、釘刺しといた方がいいよ」
辰美は浮気するような人ではない。だが、付き合いも短く、まだ辰美のことをたいして知らない自分がそう言い切ることは難しい。
けれどこんなことを話すなんて気が重い。浮気を疑って辰美に嫌われたらどうしよう。同じ歳ならもっとガツガツ怒ったかもしれないが、相手は歳上だ。しかもかなりの。
おまけに辰美は元妻の浮気が原因で離婚しているし、古傷を抉るような真似をしたらまた悲しむかもしれない。
「美夜ちゃん。格好良くても中身が伴ってない男はダメだよ」
詩音はビシッと言い放つ。好きアイドルグループがこの間不祥事で騒動になっていた彼女がいうと説得力がある。
────話し、しないと。
美夜は煩わしいその音を止めようとベッドの上から何度か床の上を叩いた。数度目の正直、アラームがやっと止まる。
朝はカフェのバイトがあるため早く起きなければならないが、なんだか眠い。多分、昨日夜更かししてしまったせいだ。
辰美から送られて来たメッセージを眺めていたらいつの間にか眠ってしまていた。
────結局、返事返せなかった。
半開きの目でメッセージアプリを開く。辰美のメールを開いて、ぼんやりと見つめた。
どうして返せなかったのだろうか。話したいと思っているのに、なぜだか怖くて出来なかった。
昨夜、辰美はストリートを見に来てくれた。そこまでは良かったのだが、なぜかまたあの女性が横にいた。しかもまた楽しそうに話している────ように見えた。
この間のライブは分かるが、どうしてストリートまで連れて来るのだろう。誘ったのはどちらだろうか。辰美なのか、それともあの女性なのか。
邪推しすぎかもしれない。あの女性はCDも買ってくれたし、自分の演奏を気に入ってくれたのかもしれない。それで二人で来た。
ポジティブに解釈することもできるのに、嫌なことばかり考えて結果辰美に返事を書けなかった。
────どうしよう。辰美さん変に思ってるかな。
昨夜の人の入りは上々だった。物販は出来なかったが、聞いて、名前を覚えて帰ってくれただけでも十分だ。普段もあれぐらい人が集まればいいのだが、あれはたまたま場所が良かったからだろう。
せっかく辰美にもいいところを見せれたのに、素っ気なくしてしまうなんて。
こんなことで悩んでなんていられない。美夜はようやく起き上がり、朝の支度を始めた。
「ええ? イケオジ彼氏に変な女が近付いてる?」
詩音の素っ頓狂な声がレジに響き渡った。美夜は慌ててしーっと人差し指を構えた。
「ちょっと詩音ちゃん! 声大きい!」
「ご、ごめん」
なんとなく不安が膨れて、自分では消化出来なさそうだった。だからこそ辰美を知っている詩音に話したのだが、早すぎただろうか。
「でもさ、イケオジも酷いんじゃない? わざわざ彼女のライブに別の女連れて来るなんて」
「いや、それは……最初ファンに疑われるから、付き合ってることは隠しておこうってなって、それでライブに部下の女の人連れて来るって話になって……」
「でも美夜ちゃんは嫌なんでしょ?」
「嫌っていうか、なんか、その人辰美さんとすごく距離が近いっていうか……」
すごく慕っている、という空気感を漂わせてくる。と言った方が正しいだろうか。
いや、ただの勘違いかもしれない。毎日一緒に仕事している部下なのだ。距離が近いのは当然のことだ。それに文句をつけるなんてあまりにも子供ぽい。
「部下と浮気ってよく聞くけど……」
ドクン、と心臓が跳ねる。この間見たテレビ番組を思い出した。
「人気のある役職者ってモテるんだって……」
「う……た、辰美さんは浮気するような人じゃないよ」
「それはともかくとして、美夜ちゃんが嫌なんだったら一度ちゃんと話ししたら? 現時点では浮気してないかもしれないし、釘刺しといた方がいいよ」
辰美は浮気するような人ではない。だが、付き合いも短く、まだ辰美のことをたいして知らない自分がそう言い切ることは難しい。
けれどこんなことを話すなんて気が重い。浮気を疑って辰美に嫌われたらどうしよう。同じ歳ならもっとガツガツ怒ったかもしれないが、相手は歳上だ。しかもかなりの。
おまけに辰美は元妻の浮気が原因で離婚しているし、古傷を抉るような真似をしたらまた悲しむかもしれない。
「美夜ちゃん。格好良くても中身が伴ってない男はダメだよ」
詩音はビシッと言い放つ。好きアイドルグループがこの間不祥事で騒動になっていた彼女がいうと説得力がある。
────話し、しないと。



