結局夜まで一緒にいた。これではまるでデートだ。MIYAはなんとも思っていないのか楽しそうに笑うばかりで、辰美はますます不思議に思った。

 いくらMIYAに彼氏がいないと言っても大人の女性だ。おじさんの相手などして面白いはずがない。

 けれどMIYAはそういった素振りも見せず、いろいろ質問したりされながら楽しそうにしていた。思わず誤解してしまいそうになるほどに。

 夕食を終えて店を出ると、外は暗くなっていた。もう流石に返した方がいいだろう。MIYAがいいと言っても《《こんなおじさんに》》一日を使わせるのは申し訳なかった。

「そろそろ帰ろうか。もう遅い」

「あ……そうですね」

 なんとなく名残惜しいが、ここで引き止めても仕方がない。素直に駅まで送ることにした。MIYAは少し静かになると辰美の一歩半後ろをついて来た。その手には今日買ったプレゼントの袋が握られている。

「プレゼント、喜んでもらえるといいね」

 間がもたなくてそんなことを言ってみたが、MIYAの返事はなんだかぎこちない。さっきまでは楽しそういしていたのに、何か悪いことでも言っただろうか。

 やがて駅に着いた。辰美は足を止め、MIYAに向き直った。

「今日はありがとう。いろいろ話せて楽しかったよ」

「あの……また、誘ってもいいですか」

「え?」

 思わぬ言葉が返ってきて辰美は驚いた。MIYAの真剣な表情に驚きつつも、「冷静になれ」と自分を落ち着かせた。

 MIYAはきっとまた何か頼み事があるのだ。自分に都合のいいように解釈してはいけない。こんな若い女性が好き好んでおじさんと出掛けたいなどと思うはずがないのだから。

「もっと、日向さんのことが知りたいんです」

 だが、さらに驚くような言葉が返ってきた。

「……それは、俺に興味があるってことかい」

「そうです」

 ────俺は幻でも見てるのか?

 オブラートに包んでみたもののあまり意味はなかった。

 誘われたぐらいだからどちらかといえば好意を抱かれていることは分かっていた。だがそれは男に対する好きとは別物だと思っていた。部下に言われている通り、年上で頼りになる。それだけのはずだ。

 だが、MIYAは冗談を言っているようには見えない。明らかに緊張しているふうだし、目は真剣だ。

 正直こんな嬉しいことはないと思った。自分はMIYAに好意を抱いていた。そして彼女も────そう思うとつい口角が緩みそうになる。

 しかし、すぐ冷静になった。

 MIYAは歳が離れすぎている。下手すれば娘と父に間違われてもおかしくない。誰が見てもそう思うだろう。

 そんな男と付き合って、MIYAが幸せになるだろうか。あまつさえ離婚歴があるのだ。MIYAの人生を台無しにするだけだ。

 好意はある。だが、現実的に自分達は恋人になるには障害が多すぎる。

 彼女が自分に好意を抱いているなんて勘違いだ。そんな都合のいい妄想、ストーカーと変わらない。

「ありがとう。若い子にそんなふうに言ってもらえるなんて嬉しいよ」

 にっこりと笑みを浮かべ、気まずい雰囲気を誤魔化した。勘違いしそうになる自分への戒めでもあった。

「日向さん、私は……」

「じゃあ、私はこっちだから。MIYAさんも気を付けて」

 半ば無理やり会話を終わらせ、背を向けた。

 露骨だっただろうか。最後、MIYAがどんな顔をしていたか確認しなかった。確かめるのはあまりにも恐ろしかった。自分の本心が見抜かれてしまいそうで────。