『こんばんは。もしよかったら来週の金曜の夜、一緒にご飯でもいかがですか? この間のお礼がしたいので』

 週半ば、MIYAから可愛らしい絵文字がついたメッセージが届いた。まさかそんなものが届くとは思ってもみず、辰美はらしくなく慌てた。

 食事はあの一回きりで終わると思っていた。MIYAは自分のことをただのファンだと思っているだろうし、こんな年上と食事しても面白くないと思った。

 だが、そうではなかったのだろうか────。

 いや、勘違いしてはいけない。辰美はすぐに自制した。

 MIYAはこの間奢ってもらったからお礼をしたいだけだ。それ以外にないだろう。きっと申し訳ないと思って誘っただけなのだ。

 MIYAのためを思うなら断ったほうがいい。最初はそう考えたが、期待には勝てなかった。

『誘ってくれてありがとう。金曜は空けておくからいつでも大丈夫』

 返事を返し、どうしようもない自分に呆れた。

 いっそのことこれがただの憧れだったらどれだけよかったか。それなら追いかけるだけで済んだのに、変な思いを抱いてしまったがために苦しむことになった。

 自分には恋愛など向いていない。それは雪美のことでわかったことじゃないか。また雪美のように不幸にするつもりか?

 自分を責める言葉を投げかけている間に、MIYAから返事が来た。

『ありがとうございます。お店はまた事前に連絡しますね。楽しみにしています』

 ────優しい子だな。俺じゃなくても、きっといい男がたくさんいるだろうに。

 あの日、自分はMIYAの曲に救われた。離婚で疲れ果て、人を信じられなくなって自分に自信を失っていた。

 だが、MIYAの演奏はつまらなかった自分の世界を彩りあるものに変えてくれた。再び楽しいものにしてくれたのだ。

 けれど求めていたのは癒しではなかったのかもしれない。あの瞬間足を止めたのは、曲が素晴らしかったからでもあるが、MIYA自身に興味を持ったから────MIYAに惹かれたからだ。

 妻ひとりろくに愛せなかった男があんな若い女性にうつつを抜かすなんてどうかしている。

 だが、これは本心だ。雪美の時に感じなかったものが今はある。