箱の世界〜愛が導いた奇跡〜

宮槻くんと付き合ってから1ヶ月。

今日は、デートの日。

オシャレして、この前と同じ駅で待ち合わせをしている。

時間より早く着いちゃって、駅の広場で時間を潰そうと向かうと、後ろから声を掛けられた。

『可愛いね~。俺達と遊ばない?女の子とか紹介してよ~!』

えっ、これってナンパ!?

掴まれた腕にゾクッッと鳥肌がたって嫌!と声をあげようとしたら
『こんにちは。お兄さん。香澄っていうの。よろしくね』

宮槻くんが女の子みたいな声でナンパの人達の耳元で話した。

『ちっ。彼氏持ちかよ。』

行こうぜ!と言って離れていったけど、まだ恐怖で震えが止まらない。

『ごめんね。瑚々ちゃん。遅くなって。大丈夫?』

「あっ、うん。大丈夫。」

怖くて、声も震えている状態でしか話せなかった。

『嘘はダメだよ。まだ怖いんでしょ?あそこのベンチで休もう?』

宮槻くんは優しくベンチまで手を握っててくれて少しずつ落ち着いていった。

『ごめん。こんな人通り多いところだったら大丈夫かと思ったけどこれからは俺が先に着いとくから。』

シュン......。という効果音がついてもいいくらいに隣で落ち込んでいる宮槻くんがとんでもなく可愛く見えた。

「ううん。これからもここでいいよ。声掛けられても無視して拒否するから。」

それでも心配......。と宮槻くんは言うけど、ここは私の頑固さで勝った。

「それより、今日はどこ行くの?」

『あれ、言ってなかったっけ?なら、着いてからのお楽しみってことで。』

それからは、ほんとに何も教えてくれなくて、ただ宮槻くんの隣を歩いた。

電車に乗って、30分した頃、『降りるよ』と言って降りた先は、

「......ここ!」

『うん。今が旬だから。』

宮槻くんが連れてきてくれたのは、いちご農園だった。

ビニールハウスの外で受付の列に並ぶのかと思いきや、入り口の人に

『予約していた宮槻です』と言って、長い列に並ばずに案内された。

予約しててくれたんだ......。

案内されたビニールハウスは外にいるのにいちごの香りが漂っていて、もう幸せだった。

制限時間はあるけど中に入ってからは、まるで、いちごに溺れているのかと思うくらい幸せな時間を過ごした。

それから1時間、宮槻くんと一緒に甘~いいちごを食べた。

「宮槻くん、ありがとう。いちご狩り、すっごく楽しかった!」

『よかった。俺も、瑚々ちゃんの笑顔たくさんみれて楽しかったよ。』

どこまでも、照れさせるようなことを言う宮槻くんだけど帰り際にいつもの公園に寄っていいか。と聞かれたので、もちろんおっけーをし、公園に行った。

ここで、1ヶ月前、告白されたんだよね。

今でも、宮槻くんみたいなカッコいい人と付き合っているなんて実感が中途半端で縁結びの神様に毎日お礼を言ってる。

『瑚々ちゃん。こっち来て。』

そう言われて、宮槻くんの隣に座ると、バックから何かを取り出した。

『これ、1ヶ月記念に。』

そう言って渡してくれたのは、白い花の造花鉢植え。

手にとった途端、たくさんの情景が頭の中を駆け巡った。



そして、口から出た言葉は

「白いアザレアの花言葉は、あなたに愛されて幸せ。永遠の愛。だったよね。
前にもらったときより嬉しい。ありがとう。香澄くん。」

『えっ?』

「あれ......?なんで前にもらったなんて......。それに香澄くん......って。」

自分の口から出た言葉に不思議な感情を抱いていると、涙を浮かべながら抱きしめてきた宮槻くん。

『瑚々ちゃん。いや、瑚々。思い出してくれてありがとう』

思い出す......?

っつ!!!

そうだ、私は、宮槻くん......ううん。香澄くんと付き合ってた。中学生のときに。もちろん、入院する前から。

「かす......みくん?」

思い出した記憶の中で一番大きい幸せ。

私は、香澄くんが好きで、香澄くんも私に大好きって言っててくれた。

入院してたときに撮ったって写真も、私が撮ろうって言ったもの、今ひざの上にあるアザレアの造花鉢植えも香澄くんが花言葉と一緒に渡してくれたもの。

なんで、こんな大事なこと忘れてたんだろう......。

涙が頬をつたい、嬉しいのに、切ない気持ちでいっぱいだった。

「私、......なんで......」

『部分的記憶障害。瑚々は俺と付き合っていたことを忘れちゃってたんだ。病気の影響だよ』

それから、香澄くんの話を聞いた。

香澄くんからこの造花をもらった日に意識が危うくなったこと、危険な状態で記憶を失う可能性を先生から聞いたこと、目を覚ましたとき、初めましてにしようとお母さんと話し合ったこと。

確かに最初、目が覚めたとき私は、目の前にいた男の子に名前を呼ばれた記憶がある。

あれは、香澄くんだったんだ。

「ごめんね。忘れ......ちゃってて」

涙が止まらない。香澄くんの辛かった気持ち。苦しいほどに目から伝わってくる。

『ありがとう。』

「なんでお礼言うの?」

私、忘れちゃってたんだよ?大好きだった人と過ごした記憶......。

『だって、思い出してくれたじゃん。今こうやって。瑚々は......帰ってきてくれた。俺の記憶の中の瑚々に。......おかえり。瑚々。』

そう言いながら、香澄くんは私の隣に座った。

香澄くんの目にも涙が浮かんでて、でも、大好きな笑顔。

『実はさ、このまま戻らないかもって言われたんだ。記憶。』

「いつ?」

『成人式よりちょっと後に。瑚々の担当医の先生に。』

どうしても、思い出して欲しくて、何回か話しに行ってた。と香澄くんは言うけど、

どうしても、涙は止まってくれない。

なんで、もっと早く思い出さなかったんだろう。

香澄くんは目が覚めた後、覚えていない私に宮槻くんとして、何回もお見舞いに来てくれたのに。

ずっと、病室にあった造花の鉢植え。

これ、どうしたの?とお母さんに聞いても、お父さんが持ってきたんだよ。としか言ってなかった。でも、確かに鉢植えについて聞くと、決まってお母さんは少し動揺するのだ。

退院した後も、家に飾ってあるアザレアを見てきたのに、なんで思い出さなかったんだろう。

香澄くん......。辛いのに、記憶のこと知ってたのに。会いにきてくれてたんだ。

『瑚々』

香澄くんに名前を呼ばれ俯いてた顔を上げると、ちゅっという音と共に香澄くんの唇と私のが重なった。

そのまま、香澄くんは私の目から止まることの知らない涙をキスしながらとってくれた。

『しょっぱい。(笑)』

香澄くんが笑うと、私もつられて笑っちゃう。

『瑚々、ありがとう。思い出してくれて。』

「ううん。わたしこそ。待っててくれてありがとう。」

『瑚々』

愛してる。

そう耳元で香澄くんが囁いた。

大好きな人に名前を呼ばれると特別な気持ちになれて、名前が誇りに思える。

「私も。愛してる」