コンコンッ。

部屋のドアがノックされる音で私は窓の外を眺めるのを止めて「どうぞ」と返事をする。

『やっほ~。瑚々ちゃん。』
「あっ!香澄くん! おはよう。」

待っていた大好きな人が来てくれて心が喜びに満ちた気がして元気なところを見せる為に笑顔で迎え入れた。

すると、香澄くんは喉をゴクリと動かしてため息をついた。

そんなに笑えてなかったかな......。私の顔をみてため息ついたよね......。

内心ショックをうけていると、香澄くんが優しく抱きしめてきた。

「えっ!?か、香澄くん......?」

『あのさぁー。ほんと、会ってすぐにそう、はにかんだ笑顔するのホント心臓に悪い。』

「え、あ、ごめん。見苦しいもの見せて。」

『は!?違う。逆。可愛すぎて心臓止まる。そろそろ自分が人より可愛いってこと自覚してよ』

......可愛いって......。

私が可愛かったら、世界の人みんな美人さんだよ。

でも、可愛いって言ってもらえて嬉しかった。

好きな人に褒められるのってなんでこんなにうれしいんだろう。

ふふっ。とにやけるのも香澄くんが目の前にいると、いとも簡単にできてしまう。

『なにも、変わりない?』

「変わりないって。昨日会ったばっかじゃん。」

『そうだけどさ。いっときでも離れたときに悪化することもあるかもでしょ。』

こんなに、心配してくれると、部屋で告白してくれたときのこととか思い出す。

「あっ!でもね、一つ変わったことというか、これから変わることというかご報告?がある」

『なに?』

「あのね、今日からこの部屋に新しい患者さん来るの。」

『へぇ。なんか、嬉しそうだね』

「1人だとなにかと......さ。夜とか静かすぎてなかなか眠れないことがあって」

『じゃあ、そう言えばいいのに。俺泊るよ?』

なんで、そんなことを真顔で言えるのか......。不思議。

『一緒に寝ようよ。ほら、瑚々ちゃんのベット広いし。』

そう言いながら、ベットに入るような素振りを見せる香澄くんの顔は冗談を言っている顔ではない。

「ダメに決まってるよ。私一応検査入院なんだから。」

『冗談だよ。瑚々ちゃんのママが許してくれないでしょ......?』

あっ、冗談だった。でも、お母さんは絶対無理だろうな。てかその前に先生が許可を出すとは思えない。

「ふふっ。確かにそうかも。」

その時、部屋の外から私の名前を呼ぶ声がした。

香澄くんが出てくれて看護師さんと、ほし先生こと私の主治医の先生が入ってきた。

『瑚々ちゃん、あのね、すごく言いにくいんだけど......って、このコ、もしかして瑚々ちゃんが言ってた彼氏さん?』

本題より香澄くんのことを突っ込んでくる先生は興味深そうに香澄くんをみてる

『宮槻 香澄です。』

『瑚々ちゃんが言ってた通りカッコいいな~。』

「ちょ!先生!!」

診察のときに誤って口がすべったというか......。て誤りじゃないけど、本当にカッコいいんだけど......。言うつもりのなかったことを言ってしまって今赤面状態。

『ああ、ごめん。本題からずれたね。でも、彼氏さんがいるなら大丈夫かな。』

そう言って部屋の外に顔を向け、『はいっておいで』と言った。

もしかして、新しいルームメイト!?と期待してたけど入ってきた子は私の予想をはるかに超えてきた。

看護師さんに連れられて入ってきたのは、私よりも年上っぽい男の子で......。

その子をみた瞬間、香澄くんから笑顔が消えていった。

というか、何も感情がない。表情を失ったみたいな......そんな感じの顔。

『ごめんね。瑚々ちゃん。この部屋しかなくて、部屋が空くまで一時的に!だから』

先生が謝っているけど、いやいや、倫理的にそういうのどうなの?ダメじゃない?いくら私でも、一応世間一般てきには年頃の女子だし。

『初めまして。新川魁吏(あらかわ かいり)です。よろしく。』

ニコッと笑って挨拶してきたのは、紛れもなく男の子。

「あ、は、初めまして。松森瑚々です。」

相変わらず、表情筋が固まった香澄くんはご健在だけど、挨拶くらいはしないとと思った。

『瑚々ちゃん......ね。可愛いね~。好きになっちゃいそう!』

プツッッ。

え......。隣から何かが切れるオーラを感じる。

う......わ。お、怒ってる。香澄くん......。

『ねえねえ、瑚々ちゃん。隣の子はだぁれ?さっきから、睨まれてるんだけど』

苦笑いしながら、私から目線をずらそうとしないので予想は出来るけど一応確認......。

......わ。ホントだ。

「香澄くん!ダメだよ。睨むのやめて?」

お願いした後に聞いたのは、ビックリするほど限界が近い香澄くんの声だった。

『瑚々の彼氏の宮槻香澄です。どうぞ。よろしく。』

声が怒ってるけど、彼氏って紹介してくれたの初めてだな......。

幸せってこういう感じなんだな。

て、そうじゃなくて......。

「香澄くん、ちょっと、いい?」

どうにかして、機嫌をなおしてもらわないと......っ!

『え、?瑚々ちゃん?ちょっと!』

手を引っ張って外に出て人目の少ないところに来たけど......。

『なに?どうしたの?』

香澄くんの声は、さっき魁吏くんに向けていたものとは違ういつもの明るい声だった。

「あ、あのね。お......怒ってる香澄くん。怖かった。なんで、怒ってたの?」

いまでも、思い出すと足が震えてくる。

『瑚々ちゃんさ、俺が彼氏だって分かってる?』

「そんなこと......あたりまえじゃん。私、香澄くんのこと好きだよ?」

ゴクッツ。と香澄くんが喉を動かした。

『だって、あいつ下心丸だしじゃん。瑚々ちゃんにむけて......。』

......?

「したごころ......ってなぁに?」

香澄くんはすごいな。いっつも難しい大人?の言葉を理解してて。

すると、香澄くんは、はぁぁぁぁ~。とため息をついた。

「ごめんね、バカで。」

『違うよ。なんで瑚々ちゃんが謝るの。下心っていうのは、......。』

「......?」

教えてくれようとしてるはずの香澄くんの顔はだんだん赤く染まっていって......。

『ほんとに分からないの?』

「わ、分からない。そんなに常識的なことだった?やっぱり、スマホで調べるっ!」

慌てて、スマホをポケットから取り出して したこ。まで検索欄にいれたとき、香澄くんは私のスマホを持った手を掴んで離さなくなった。

「香澄くん......?離して?調べられない......?」

『いいよ。俺が教えるから。』

香澄くんがそう言ったのでスマホをしまうと今度は香澄くんに手を引っ張られて5階の端っこのベンチまで連れてかれた。

「香澄くん......どうしたのっつ......ん......ふっ......

え......?何。キスされてるっ?

く、苦し......。

「ぷは......っ。」

あっ、香澄くんの顔さっきより赤くなってる。

「香澄くん!こんな、いつ人が通るか分からないところでは......!(小声)」

『下心って言うのはね、こういうふうにキスしたいとか、こう、ギュッってハグしたいとか思うことなんだよ。』

途中から香澄くんに抱きしめられながら、教えてもらった。

「魁吏くん、今日会ったばっかだよ?」

『......それでも、丸だしだった。ていうか、あいつのこと名前で呼ぶのやめて。』

「え......でも、苗字覚えてな

『新川』

すごい。即答。......じゃなくて!

「なんで、ダメなの?」

『瑚々ちゃんの彼氏は僕だから!』

っつ......。

そんな、泣きそうな顔されると......。私だって断ると言う選択肢を一瞬で失う。

それに僕って。急に子供っぽくなってる。

可愛い。

あれ?これ知ってるかも。小説で読んだことある。

「香澄くん......。それって、嫉妬?」

私の言葉に明らかに反応した香澄くん。

また、私の知らない香澄くんに出会えた。

『とっ、とにかく、あいつのことはこれから、苗字呼びで、必要最低限しか話さないようにして』

嫉妬してもらったことが、なんだか嬉しくて。香澄くんのことを抱きしめてしまった。

『っつ。瑚々ちゃん......。?』

「あっ、ごめん。私、香澄くんのこと好きだから安心してくれていいよ?」

思ったことを素直に伝えられる人に出会えたことが幸せ。

『あの、うん。ありがとう。でもマジでそれ以上可愛すぎることしないで。心拍おかしくなる。』

心拍って......。

「ねえねえ、香澄く

『ストップ!』

え......?

『あいつにさ、瑚々ちゃんは俺の彼女って見せ付ける為にさ、ちゃんつけて呼ぶのやめていい?』

「え......?ちゃんを取るって......。呼び捨てってこと?」

『そう。いい?』

まさか、こんな早く呼び捨てで呼ばれることになるなんて......。ちょっと恥ずかしいけど......。

「いいよ。でも、そんなことして見せ付けなくても私は香澄くんの彼女だよ?」

『だから、そういうとこ......。』

......?

『瑚々。』

っつ!......意外と、恥ずかしい。

呼び捨てだといつにも増して香澄くんがカッコよく見える。男の人だって分からせにくる。

「な、何?」

『戻ろう。そろそろ、瑚々、診察の時間でしょ?』

「へ......?今何時......って。嘘!!4分前!」

やばい。昨日も、検査の時間すっぽかしたのに!

「あっ。ねえ、香澄くんも来て?診察。」

『え......?なんで......。』

なんで......って。言うしかないか。もう嘘もつきたくないし隠し事もしたくない。

「は......はな......。離れたくない。」

恥ずかしくて下を向きながら喋っちゃった。聞こえたかな。

『ごめん。瑚々。最後のほう聞こえなかった。』

「えっ?やっぱr......

ちゅっ

......!!!!

顔を上げて言い直そうとした私の唇は待ってました!とでも言うように香澄くんの唇とかさなって音をたてた。

『ごめん。ホントは聞こえてた。可愛すぎるよ......瑚々。行こう!一緒に。』

「うん!」

ああ、もう。香澄くんのこと好きすぎる。

さっき、こんなところじゃ。って言ったばっかだけど、ああいうところでキスされるのも

悪くない。し、嫌じゃなかった。

私も、香澄くんと逆の立場で、隣のベットが可愛い女の子だったら、同じことしたり言ったりするかも。

でも、幸せだな。

好きな人とのキスって何回しても、し足りない。