1時間目が終わるチャイムで起きて、私は教室へ戻った。
「あっ!瑚々!!大丈夫だった!!?今日保健室の先生いない日だよね!?ひとりでいたの!?」
慌てながら話を聞いてくる華鈴ちゃんに、保健室前で夏月先生に会ったことを話した。
「そうなんだ。夏月先生と......。で、瑚々の具合は!?大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ。最近少し寝不足なだけ。」
ごめん。華鈴ちゃん。いつか話すから......。
それからは一日が早く過ぎていった。
3時間目の数学の授業では、ほんとに久しぶりに授業をする人の授業なのかってくらい分かりやすい授業だった。
家に帰って、リビングの扉を開けようとした時、学校で感じたものとは比にならないくらいの頭痛が急に身体を襲った。
その場に立っていられないくらいの痛みで私はその場に崩れ倒れた。
少しずつ遠ざかっていく意識と崩れる音がキッチンまで聞こえたのか、既に家にいたお母さんの声が遠く聞こえる。
「瑚々......?瑚々っ!!!!!」
お母さんの呼び掛けは聞こえるのに、目の前が真っ暗で、私はそのまま意識を手放した。

次に目を開けたのはその日の夜だった。
部屋の外からお母さんとお父さんが話している声が聞こえるが私は近くに置いてあった清涼飲料水を飲むために重たい体を起こした。
あれ?美味しくない。というか......味がしない。
でも、これも疲れているんだと思い、ふぅ。と息を吐く。
しばらくして、ノックの音がして、お父さん達が部屋に入ってきた。
「瑚々......もう大丈夫なの?」
少し焦ったお母さんの問いかけに私は微笑みながら、うん。と答えた。
お父さん達はホッとしているようだったけど、どこか決意を固めたような表情も垣間見えた。

『あのな、瑚々。落ち着いてお父さんたちの話を聞いてくれるか?』
軽く頷きそれを見たお父さんたちは話し始めた。
『今......というか。さっき瑚々は玄関で倒れたことをおぼえているか?』
「え?なんとなく。」
『瑚々。それ、な。瑚々の病気の症状なんだ。』
「え?だって、私の病気には症状がないんじゃないの?」
上手く状況が飲み込めなくてお父さんの方を見ると、またお父さんは話し始めた。
『転校する前に病気を診断されたときお父さんたちだけ呼び出されて症状の発作の説明をされたんだ。その時に言われたものがさっきのとすごく似てる。というか同じなんだ。』
「発作......」
もっと分からなくなり、お母さんの方を見ると、目の周りが赤くなっていて涙を浮かべていた。
『瑚々、続きを話してもいいか?無理なら、今日は寝なさい。』
心配するお父さんの声を聞いて、
このまま自分の病気のことをよく知らずにいるのは、隠れてコソコソしているのと同じだ。
そう思い私は、大丈夫。とお父さんに伝えて続きを聞いた。

『診断された時にも言われたけど、瑚々の病気は"感覚神経失陥症"といって、人間にある五感のどれかが一時的に失陥する。つまり感じ取りにくくなる病気なんだ。』
病名は聞いていたけど、その後のことは初耳で、本当に自分が病気なんだということを実感した瞬間だった。
そのとき、今まで喋らなかったお母さんが口を開いた。
「黙っててごめんね。瑚々。でも、命に別状はなかったんだから、これからきちんと病院に通って治していきましょ。きちんと通って診察を受ければ発作は起こらずに今まで通り過ごしていけるから。」
さっきよりも涙ぐんでいるし、声は震えているお母さんを見て、私は頷くことしか出来なかった。