あっという間に土曜日になり、楽しみにしていた虹中祭当日
私はいつもより早く来て、香澄くんに手紙を書いていた。
"今日の放課後"

「「香澄くん、ずっと返事を待たせてごめんなさい。今日。虹中祭終わったあとの放課後、図書室で待ってます。」」
松森 瑚々

これで、よし。
香澄くんが来る前に机に入れておこう。
まずは、今日の虹中祭!!思いっきり楽しむぞ!

香澄side

驚いた。学校に来て準備を進めていた時に思いっきり椅子に足をぶつけてしまった。
いや、そんなことはどうでもいい。
それよりも......
俺にとって、いちばん愛しい存在からの手紙が机の中に入っていたのだ。
どうしよう。気持ちが追いつかない。
いい返事がもらえるか、ではなく俺と同じ方法で呼び出そうとしてくれることが可愛くて仕方なかった。
今日は、瑚々ちゃんが転校してきた時にも言っていた虹中祭。
俺の任務は、ただ1つ。
"校外から来る人から可愛い瑚々ちゃんを守ること!"
同じキッチン担当になるために女子からのおねがいを必死に断ったんだ。
キッチンでさえ、危ないことで溢れているのに、そこに俺以外の奴といるなんてもってのほか。
包丁で手を切らないように。とか、火やお湯で火傷しないように。とか。
目に見えるところにいるだけでもしもの危険から瑚々ちゃんを守れるのだ。
あんな、か弱そうな瑚々ちゃんに傷ひとつ付ける訳にはいかない。
だから、全力で守るんだ!!
そして、楽しく今日の虹中祭を終わらせる!!
返事を聞くためにも!!!

よし。気合い入れていこう。
瑚々ちゃんが、大好きな俺にしか出来ない任務。
全うしてみせる!!!
香澄side fin

ピンポンパンポーン♪♪
校内放送のアナウンスが鳴るといっきにお客さんが教室に入ってくる。
「いらっしゃいませー!喫茶すまいるにようこそ!何名様ですか?」
接客担当の子達がお客さんをどんどん教室に案内していく。
と同時に、
「カフェオレとミルクレープ1つずつ!」「5番席にいちごムースとストロベリーティー!」
などと、注文の声が殺到する。
「あわわわわ......えっと、まず私はどうしたら。」
どんどん目の前に置かれていく注文内容が書かれた紙を見て気が遠くなりそうになる。
『瑚々ちゃん、大丈夫?無理してない??』
目立つことが苦手な私を気遣って小声で香澄くんが言った。
「あ、うん。なんとか。でも、何したら......」
せっかく、開店準備とかしてたのに。
『じゃあ、瑚々ちゃんは飲み物を作ってくれる?俺が食べ物をつくるね。』
「えっ、いいの?迷惑じゃ......」
『迷惑なわけないって!!瑚々ちゃんのことで迷惑なことなんてないよ。むしろ、大歓迎!』
「ありがとう。」
こんな時まで私のことを考えてくれる香澄くん。優しいな。
そう思って、じっと見てると、香澄くんの顔がみるみる赤くなっていく。
「香澄くんこそ、大丈夫??顔赤いけど。」
『瑚々ちゃんが見てくるからでしょ。忘れてもらっちゃ困るけど、俺は瑚々ちゃんが好きで告白してる身なんだよ?可愛い顔で見つめてこないで。』
「かっ、かわいくなんか......ないもん 」
『はぁ。だからそういうところ。』
「あ......ぅ、ご、ごめんなさい」
『ダメだ。これじゃ自分で自分の首を絞めてるみたい』
「よし、頑張ろ!!」
『うん。そうだね。』
「えへへ。よろしくお願いします。」
『やっばい。その顔は反則......』
消え入りそうな声で言った声は私の耳に入る前に空気となって消え去った。

そして、放課後。
「どう話していいか分からない。どうしよう。なんて言ったら」
呼び出しておいて遅れるのは常識外だから早めに来たは言いものの返事をどう伝えればいいかが分からない。
病気のこと......は、教えたくない。
『瑚々ちゃん』
「み、みやつき......く、ん。」
急に名前を呼ばれてびっくりしちゃった。音立てないで入ってきたのかな。
『ごめんね。待たせて。』
「う、ううん!」
『そっか、なら良かった。そ、それで、返事もらえるんだよね?』
「あ、うん。」
『じゃあ、後悔しないようにもう1回言わせて欲しい。好きだよ。瑚々ちゃん。』
「ありがとう。香澄くん。......でも、ごめんなさい。私、香澄くんの気持ちには応えられない。」
『好きな人がいるの?』
断られて少し涙声の弱い声で香澄くんは聞いてきた。
「ううん。そうじゃないの。私、恋愛経験ほんとになくて、人のこと好きになったことも無いの。香澄くんは私のこと好きって言ってくれてるのに、私はそうじゃない。同じ気持ちじゃないのに付き合うなんてできないって思ったの。」
『そ、それはっ......』
付き合ってしまったら、すぐ病気のことはバレるだろう。そう思った私なりの考え。

目の前にいる香澄くんはいかにも。そうだよね。みたいな顔で私を見ていた。
『正直に言ってくれてありがとう。』
こんな時にもお礼言うなんて......香澄くん心広すぎるよ。
『でも、俺はこれからも君のこと好きでいると思う。それでも......いいですか?』
「うん。ありがとう。」
『じゃあ、俺帰るね。』
「バイバイ。香澄くん。来てくれてありがとう。」
お互いに挨拶をして私たちはどちらも涙1つ流すことなく......香澄くんは涙目だったけど、図書室をでた。

そして、振替休日を終えた火曜日。
香澄くんの告白を断ったことは華鈴ちゃんにちゃんと伝えた。
初めは驚いてたけど、分かってくれて。
香澄くんも今まで通り接してくれてる。
今日はいつもより遅く家を出たからギリギリだった。教室に入ってすぐチャイムなって先生が入ってきたから。
ふぅ、危なかった。

「おはよう。みんな。今日は大事な話があるからよく聞いてね。」
大事な話......?
「来週から1週間月曜日から先生、遠いところに出張に行くことになって、1週間非常勤の先生と過ごしてもらうことになったの。それで、その先生が明日自己紹介に来てくれるので覚えておいてくださいね。」
いつもより長めの先生の話を聞いて朝の会が終わると、みんなが一斉に喋りだした。
「瑚々ーー!!」
「どうしたの?華鈴ちゃん。」
「明日めちゃくちゃ楽しみだねーー!」
「どうして?」
「非常勤の先生ってめちゃくちゃイケメンって噂なのー!」
「そうなの!?華鈴ちゃん見たことあるの?」
「ううん。見たことはないんだけど、私が入学する前から噂で聞いてた!!まさか、会えるなんて......」
目がハートになってる......。
「そう言われると明日が楽しみだね!」
「めちゃくちゃ楽しみぃぃ!」
他校に彼氏さんいるのに......華鈴ちゃん。
でも、そんな華鈴ちゃんも言うんだから、相当なのかな。

「「さようなら!!」」
学級委員の声でみんなが一斉に挨拶をし教室を出ていく。
今日は部活がない日なので昇降口が混むだろうと、私はすぐに帰らず教室に残っていた。
「瑚々ーー!そろそろいこー!」
「わかった、!」
部活が別々の華鈴ちゃんとは滅多に一緒に帰れないから部活のない日がすごく楽しみ。
「華鈴ちゃん。最近、彼氏さんとはどう?」
「え?珍しいね。瑚々が、恭(きょう)くんのこと聞くなんて。もうめちゃくちゃ幸せだよ!喧嘩なんてしないし、毎日大好きって伝えてくれるし、最近なんて、ハグしてもらった!!毎日ラブラブよ!!」
華鈴ちゃんの彼氏さんは、恭弥(きょうや)さんって言うらしい。前に聞いた。
前は、恭弥くんって言ってたのに......そうとう楽しそうで話を聞いてる私も嬉しくなる。
「それよりさ!!楽しみなのは明日だよね!!」
「非常勤の先生?うん!!楽しみ!!」
どんな先生が来るんだろう......楽しみだなぁ。