目を潤ませたまま高坂の方へ男子が向き直る。

「高坂! お前のせいだからな!」

「元はといえばお前が話題ふったんだろ」

「そ、そうだけど……、」

「取り敢えず、俺が貰ったチョコは俺が食べるからお前にはやらねぇよ」

「ぐぬぬ……」

まだ男子と高坂の言い合いは続いていたが、私はそっと教室を出た。

(そっか……貰ったチョコ自分で食べるんだ、高坂)

肩掛けカバンをそっと覗くと、薄いピンクの紙袋の中に、透明なラッピング袋に入ったハート型のチョコが。

……高坂にあげるために、私が自作したものだ。

本当は、今朝渡そうと思っていた。ただ、皆みたいに衆人環視の中で机に置く勇気は無かったので、こっそりと本人に手渡ししようと思っていたのだが。

『やっべ。ギリギリセーフか?』

今日に限って、高坂は始業時刻ギリギリにやってきた。いつもなら、部活でもっと早いのに。

今日は部活が無かったらしい。

始業チャイムが鳴ってしまったため私は渡すタイミングを失い、今に至る。

(あー、人の目なんか気にせず置いとけばよかった……)