がざり。
 鼓膜を抜けたそれに、ふ、と意識が浮上した。

「…………い、っさ、くん……?」

 ぼやけた視界。感じた肌寒さ。右手でぱたぱたと彼がいたはずの場所を叩くも、お目当ての感触はなかった。
 いない。
 それを認識した刹那、言い知れぬ不安と恐怖が私を襲った。

「……や、だ……どこ……?」

 ゆっくりと身体を起こせば、足元に一筋の明かりが見える。
 照明は最低限までおとされているけれど真っ暗ではないけれど、明るいとは言えない視界。足元に伸びる暖色のそれを視線でたどれば、そこには完全には閉ざされていない扉があった。

「…………一咲、くん……?」

 寝室と繋がっているそこは彼の自室だと聞いている。実際に足を踏み入れたことはもちろんない。しかし、立ち入り禁止等を言い渡されたわけではなかったので、少し覗くくらいなら平気だろう、とベッドから降りて、明かりが漏れているその隙間に吸い寄せられるように歩いた。