堪えるしかない。
 終わるのを待つしない。
 己に言い聞かせて、ぐ、と歯を噛みしめた。

「っが!」

 瞬間、真上で吐き出された、短い濁音。
 同時に、私の身体をまさぐっていた手が止まって、離れた。

「てめぇ、絶対、許さねぇ」
「っひ、や、やめ、」

 そして聞こえた、男のものとは違う、聞き覚えのある、もうひとつの声。
 普段なら使わない、使っていたのを聞いたことがない、それに恐る恐る目を開けると、高く持ち上げられた、銀色の長い棒状のものが振り下ろされる様が見えた。

「あがっ」

 バキンッと、大きくて、けれども鈍い音がした。
 かと思えば、(くう)に舞った男のうめき声がして、はっ、はっ、はっ、と短く途切れっぱなしの、荒い息遣いも聞こえた。

「……花梛、」

 からん、と少し高い音がした。
 次いで、呼ばれた、私の名前。

「っ、一咲くん……!」
「……ひどいことしやがって……鍵、えっと、」
「きっと、その人が、」
「探す。少し待ってて」

 右に(なら)い。私も彼の名前を呼べば視線が向けられる。
 向けたその先の異常性に、気付いてくれたのだろう。苦虫を噛み潰したような表情(かお)した彼は、きょろりと辺りを見回したあと、私の言葉を聞いて、再びあの男へと視線を戻した。