カーテンの隙間から差し込んだ光が彼の髪を透けさせたせいで、目の奥がチカリと眩んだ。

「…………帰る、」
「っえ」

 昨日はごめん、ありがとう。
 言葉を付け足して、ベッドから足をおろした。

「いや待って、本当、待って」
「……離してくれない?」

 瞬間、昨夜同様に掴まれた手首。
 何なの、と、背中越しに振り返れば、陽に透けた彼の髪がキラキラと輝いていた。

「帰るなら、送る」
「……いらない」
「送る。悪いけどこれだけは譲れない」
「……」
「……花梛が拐われたこと、口裏合わせとかじゃなくて、本当にマスターから聞いてる……だから、な……?」
「……」
「送らせて欲しい」

 直視できない、したくない。そんな人と同じ空間に、だなんて、当たり前に嫌だ。けれど、そのことを持ち出されたら、私に頷く以外の選択肢は与えられない。
 こくりと小さく頭を動かせば、「ありがとう」と彼は安堵の表情を浮かべたあと、私の手首を解放した。

「バスルームに使い捨ての歯ブラシとかあるから使って」
「……」
「コーヒーくらいは飲む時間ある?」

 今日は休みだ。だから別に時間がないわけではない。
 けれど、昨夜のことといい、使い捨ての歯ブラシのくだりといい、やけに女の扱いに慣れているこの男に、それを正直話すのも(しゃく)だから「コーヒー嫌い」とだけ呟いて、バスルームへと足を向けた。