頷く。
 それが最悪の選択だということは、分かっていた。
 私にとっても、彼にとっても。

「……ん……?」

 掴まれた、そのままにひかれた手首。
 停めてある車に押し込まれたのは、頷いたことをなかったことにされないためなのだろう。一目で分かる高級車。お抱えだろう運転手。「帰る」ただその一言だけを発した彼は、運転手の返事など必要ないとばかりに、前方と後部を隔てるように黒い幕のような布をおろした。
 そこからは、されるがままだった。食べられるのかと思うほどに口内を蹂躙(じゅうりん)され、ふやけた思考へと追い討ちをかけるかのようになぞられた身体の輪郭。
 生憎、寝たら何も覚えていない、などという都合の良い脳みそではないため、昨夜の記憶は海馬にしっかりと刻まれている。初めてを、そして二度目と三度目も、彼が食い散らかした。
 そのことへと後悔は何ひとつない。しかし、皮肉だとは思った。あのまま、私が何も知らずにいれば、いずれ、私達はこうなっていただろうから。

「……花梛……?」

 もぞりと動いた、肌触りの良いシーツ。
 裸のまま上半身を起こし、申し訳程度にシーツで胸元を隠し、脳みそを覚醒させようとしている私を、どうやら彼は放っておいてはくれないらしい。