だいっきらいだった。


少なくともその人を思い出した日には枕を凹むまで殴り続けるくらいには。そのうち悔し涙が止まらなくなって、胸の震えが手に伝わって、そして力が入らなくなって、殴るのをやめる。そんな感じ。


 そんなひとが突然死んだ。すい臓がん。たくさんの人が集まったらしいお葬式。ネットニュースになってた。そしてみんなが口をそろえて言う。
「とても偉大なひとだった」
「慈善事業にもたくさん取り組み、残した功績は数えきれない」
「なによりも明るく、優しい人だった」
 みんな何を言ってるんだろう。違う国の言葉に聞こえた。私の知っているその人は、明るくはあるけれど、言われたくないことを的確に狙って言ってくる人だったのに。何度も何度も言って、私が嫌がるのを楽しんでいる人だったのに。


私、今まで近しい人の死を経験したことがあまりない。きっと私が冷たいだけだとも思うんだけど、私、もうこの世にいない人でも憎めてしまう。もう一生、私が死ぬまでその人からは嫌なこといわれないのに、悔しくて手が、足が震えることなんてないのに、それでも、お葬式に行かなかった。形だけだとしても、見送ることができなかった。



死は逃げだ。死んだらなんでも美談になるんだ。死んだ人にこんなどろどろした気持ちを抱えているほうがおかしいって目で見られて、「あなたは冷たい人ね」って。うん、そう。私って冷たいし、きっと心がない。
あなたたちが空の写真と生前のその人とのツーショットをインスタにあげる頃、わたしは鬱蒼としたこんな駄文を散らかしている。そして誰より自分が自分をずっと非難し続けてくる。
「なんでお葬式くらいいかなかったの」


ほんとうは、あなたが間違っているって証明したかった。そして「どうだ、みたか」ってあなたに正面きって。そしたらあなたきっとからからと笑ってる。わたしのなかのぐちゃぐちゃした感情なんて知らずにただただ笑って、「お祝いの焼肉いくぞー」なんて言い出して。そしたら私、あなたを許せた。ちゃんと、あなたに感謝できた。この思いは報われたはずなの。

その前に逃げちゃうなんてずるい。わたしがあなたを嫌いなまま逝ってしまうなんてずるい。私が結果を出していたら、笑ってまた手を握る未来だってあったはずなんだよ。それを夢に見てたんだよ。

間に合わなかった。私が弱かった。結果が出なかった。才能もなかった。
ただの恩知らずで、強情で、生意気で、口だけだった、こんな私だからあなたも嫌いだったのだと思います。私も嫌いです。思えば気は合ってたんですね。



どうか、そちらでは、苦しむことなんか無く、からからと元気に笑っていることをただただ祈ります。


だいっきらいだけど、嘘ひとつないわたしの願いです。








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